第9章 ヘイアン国
それでも瞬き一つ、指先でほんのわずかに合図をくれたら、どこの国の王だろうと関係ない。さらって連れて行くのに。
彼女はもう何一つ、ローに反応してはくれなかった。
「……旅が終わったら、いつかまたここに戻ってくる。その後はずっとのそばにいる。約束だ」
最後を惜しむように抱きしめた。離したくない。がいないとダメなんだと縋りつきたい。
本当に好きだった。初めてこんなに誰かを好きになって、相手も同じだけの好意を返してくれる幸福を知った。好きな人に触れる喜びや、キスできる嬉しさを知った。
「……ありがとう」
未練になるから、ローはもうを見なかった。
天守閣を出るとクルーが待っており、「を置いてくの!?」とベポが涙まじりに船長を非難した。
「ベポ……」
付き合いの長いペンギンとシャチが泣きじゃくるシロクマをなだめる。
行って、と絞り出したのはマリオンだった。
「ちゃんのそばには、俺がいるから。何かあったら必ず連絡する。俺が必ず、一生、そばでちゃんを守るから……っ」
こらえきれずに涙をこぼしたマリオンを、ウニがなだめた。
「……きっとちゃんは、ハートの海賊団に旅を続けて欲しいと思ってるよ。いつか目を覚ましたら、きっとみんなの冒険譚を聞きたがる。だから――」
「……お前も達者で暮らせ。がああなったのは、お前のせいじゃない」
ローの言葉に、耐えきれずにマリオンは泣き崩れた。
この島で二人もクルーを失うのだと思うと、ひどい喪失感があった。お調子者で要領がいいんだか悪いんだか、バカ騒ぎのいつも中心にいるようなクルーだった。これから先の航海にはいないんだと思うと、寂しい。
みんな同じ気持ちだったようで、と一緒に残るマリオンにそれぞれ抱きついたり肩を叩いたりして「元気でね」「を頼んだよ」と声をかける。
出港を、マリオンとハンゾー、そしてリトイとシュンが見送りに来た。
「傷が治ったら、衛士になるわ。王宮で王を守るの。女手が必要だから――」
「ああ、頼んだ」
リトイの言葉に、ローは心からの信頼を口にした。リトイなら必ずを守ってくれるだろう。