第9章 ヘイアン国
リトイから受け取った包みを拾い上げて王宮に向かうローの背中に、モアが尋ねた。
「……彼女に何かあったの?」
それを説明する気になど、到底なれなかった。
◇◆◇
王宮に戻り、まっさきにのところに行くと、クルーがみんな集まっていた。
彼らは船長に気づくと自然と立ち上がり、部屋を出ていく。気を使われているのはわかっていたが、「不要だ」と誤解させずに言う方法すら、今はわからない。
「リトイにもらった。こういうの好きだろ」
包みからつるし雛を出して、布製の小さな人形を触らせる。色とりどりのかわいい犬や羽子板の人形はいかにもが好きそうだったが、彼女は何の反応も示さなかった。
「……俺になにか、出来ることあるか……?」
できることなら代わってやりたかった。毎日が楽しくて、怒ったり拗ねたり、取り繕いもせずくるくる変わる表情がの最大の魅力だったのに、こんな残酷なことがあるだろうか。
「……」
白い手を握って、呼びかける。無駄だなんて思いたくなかった。それで何か少しでも変わるなら、返事がなくても何千回何万回でも呼びかけるのに――。
マリオンが牢の兄を締め上げて聞き出したところによると、神託を受けた後、回復した王はただの一人もいないということだった。
この国にとって王は飾りか、息をする神物に過ぎなかった。政治は町々の郷長が行い、国を挙げての大事業は彼らの合議制によって決まる。
「……海軍がこの国に来てた。ぐずぐずはしてられない。滞在が長引けば、さらに数が増える」
ひとところにはとどまれない根無し草稼業だ。いつまでもこの国にはいられなかった。
「はどうしたい?」
何があってもを船から下ろしたりしないと約束したのに、こんな質問していること自体がおかしかった。
もう答えは決まっている――。
香の焚かれたいい匂いのする着物に、豪奢な宝玉。髪はきれいに梳かされ、指先まで完璧に磨かれていた。王宮の女官たちは心をこめて王の世話をしている。
連れていけばこうはいかないだろう。なにせ無骨な男所帯だ。
「……」