第9章 ヘイアン国
「……お前はここに残るのか?」
ええ、とハンゾーはうなずいた。
「予言分析官ですからね。しばらくはヘイアン国に出向が決まりました」
「そうか。いろいろ借りがあったのに、返せないままで悪いな」
「とんでもありません。あなたがたのおかげで儀式を近くで見られた。……彼のことは気にしておきます」
密やかにハンゾーが告げた相手がマリオンのことなのだとはすぐにわかった。
に起こったことを、マリオンはすべて自分のせいだと思いこんでいる。ロー自身、元クルーを一人にしておくのは心配だった。
「助かる。マルガリータ……あいつの姉がこっちに向かってるらしいが、それまでは気にしてやってくれ」
握手をし、ハンゾーは力強くうなずいた。
「正直に言おうか? あんたが妹を連れて行くと言い出さなくてほっとしてる」
シュンは茶目っ気たっぷりに片目をつむって豪快に笑った。
「あんたの妹はタイプじゃないって言っただろ」
「おかげで助かった。妹はあんたにぞっこんだったからな。今からでも誘ったら二つ返事で付いていきそうだ」
まさかと思ったものの、色男の自覚持ってとに言われたこともあるので、ローは無難にそれについては触れずに置くことにした。
「達者でな。航海の無事を祈る」
痛いぐらいの力で、シュンはローの肩を乱暴に叩いた。
「マリオン、これ……」
ベポが船にあったの荷物をまとめ、マリオンに手渡した。
「もこもこクッションは、必ずいつもの近くに置いてあげて。でないと、起きた時にラウザーの船と誤解してすごく怖がるから」
「うん、わかった」
荷物を受け取り、マリオンは「必ずそうするよ」とベポに約束した。
「よろしく、船長」
船で待っていたイシリーが帽子をとって頭を下げた。ウニと同じくホワイトガーデン出身のイシリーは、丸っこい頭と体が特徴の21歳。珀鉛病が治り、故郷がない彼は世界が見たいと船に乗ることを望んでいた。
「……クルーが二人減った。負担はでかいと思うが、よろしく頼む」
「はい」
笑うと快活そうな口元が印象的だった。ウニと同じ人形師で手先の器用さは保証されているので、何かと頼りになるだろう。新しい仲間をきっとも歓迎しただろうと思うと、この期に及んで胸が痛んだ。