第9章 ヘイアン国
挨拶代わりにナイフを持って飛びかかってきたツバメの攻撃を、ローは鬼哭を抜いて受け止めた。
「人形遣いと死の外科医を捕まえたら、出世は間違いなしですね! 甲斐性上げるチャンス!!」
「こらーっ! さっきから勝手な人生設計するなー!!」
少し離れた場所でモアが叫んでいた。お目付け役なのか護衛なのか、カルマートのヒョウも一緒だ。ローの視線にとぼけた海兵は無表情でひらひらと手を振った。
「そんなこと言ったってロウさん。そりゃ共働きしてくれるのは歓迎ですけど、子供出来たら僕が稼がないといけないですし。奥さんより給料低いのも男として情けない!」
「誰が誰の子供を生むのよ!!」
「大丈夫ですよ、僕性欲強いですし。妊娠するまでヤりまくる自信ありますっ!」
爽やかに大声でとんでもないことを言って、意気揚々とツバメはローに襲いかかった。
「お前らいつの間に……」
「いやぁ、お恥ずかしい。男女がどうにかなるのに時間なんて関係ないもんですね。結婚式には呼べないけどお祝いは受け付けてるんでっ!!」
優男に似合わぬ膂力で殴るような斬り込みに押され、ローは後ずさった。
『君じゃ僕は斬れない』
セブタン島でツバメに言われた言葉が蘇る。あの時の自分も今のツバメのようだったんだろうと思うと笑えた。
幸せいっぱいで、大事な人を守れると間抜けにも思い込んでいたのだ――。
「――タクト」
「うわ!?」
刃物を握った手が横から飛んできて、ツバメは慌てて飛び退いた。オペオペの実で切り離された、ブラッドリーの手だった。
体勢を崩したところを逃さず、ローはツバメを切り刻む。
『次は負けねぇさ』
を大見得を切ったのに2連敗なんて情けないことになるのが嫌で、暇さえあればどうやったら勝てるかずっと考えていた。合間ににキスして、情けないところなんて絶対見せたくないと自分にプレッシャーをかけて。
だがどんな勝利も今は虚しく、わずかな達成感すらなかった。
「ツバメ君……!?」
駆け寄ろうとしたモアを、ヒョウが押し止める。
「……前に会った時とは別人。正面からやっても勝ち目はないです。……先輩は残念でした」
「お前は助けろよ!」
合掌するヒョウに、バラバラにされたツバメが騒いだ。
「祝いじゃねぇが、ブラッドリーはくれてやる。好きにしろ」