第9章 ヘイアン国
全然さっぱり意味がわからないが、それを確認するより、ローは一番聞きたいことを切り出した。
「は?」
その名前を出したとたん、シロクマの顔が泣き出しそうに歪んだ。聞くまで言わなかったのはわざとだと気づき、だからこそ何か悪いことが起こったのをローは察した。
「どこだ」
「王宮の……一番上」
ベポが指さした階段にローは走った。
息が切れても構わず駆け上がり、最上階でマリオンを見つける。
大きな扉の前で控えるように正装で座っていたマリオンは、ローの顔を見るなり泣き崩れた。
「ごめん、船長。ごめん……っ。こんなつもりじゃなかったんだ……!」
ローにしがみついてマリオンは号泣した。
「……は?」
中を指され、ローは震える手で扉を開けた。
キョウの都が一望できる天守閣には座っていた。美しい色とりどりの着物を着て、豪奢な首飾りや簪を付けている。
最悪の事態を想定していたローは、彼女が生きていてくれたことにひとまず胸をなでおろした。
「」
呼びかけても反応はなかった。聞こえなかったのだろうかと前に周り、ローは彼女の手を握る。
「……?」
瞳は開いているのには無反応だった。普段の彼女とはかけ離れた様子にぞっとして、「!!」とローは彼女を揺さぶった。
「片手の砂が飛び、墓所は崩れる。隼が空に散り、空白はまだ埋まらない」
歌うように彼女はささやいた。それきりは目を閉じて、微動だにしなくなる。ローは愕然とした。
「……海神に喰われたんだ」
泣きつかれた目で、マリオンが説明した。が首から下げていた貝殻を外して録音を切り、書記官らしき人間に渡すと、代わりを彼女の首から下げる。
「もうちゃんは自分で話すことも、体を動かすことも、何かを聞いたり感じたりすることもできない……」
ウソだ、と反射的に言いそうになって声が出なかった。
触れればこうしてぬくもりがあるのに、もうがではなくなってしまったなんて到底受け入れられなかった。
「ちゃんが、俺たちみんなを助けてくれたんだ。この国のことまで……っ」