第9章 ヘイアン国
海神は意外な小ボケをかましてニコニコ笑った。
「……キャプテンやみんなに、お別れ言える?」
「今は無理だけど、いずれ。……いいの?」
「だって私が拒否したら、色んな人が代わりに犠牲になっちゃうんでしょう? それ、キャプテンや他の仲間も例外じゃないよね。私、スイレンにウニを守るって約束したの。それにマリオンが故郷をすっごく大事にしてたから、私にできることがあるならしてあげたい」
スイレンもしたことだから、怖いとか嫌だとは思わなかった。ただ寂しい。もうキャプテンやみんなに会えない。そのことがすごく悲しい。
(キャプテン、大好きだよ……)
好きだって言ってくれて嬉しかった。愛されるとなんでもできる気がした。
与えられたものを何も返せなかったことが気がかりだった。でもこれは自分にしか出来ないことだから。
(あの日、北の海で救ってくれてありがとう――)
90.彼女は王に
ローが目を覚ますと、太い檜の梁が目に入った。
(どこだ、ここ……)
体を起こして全身の激痛にうめく。歌姫にやられた傷のせいだったが、包帯が変えられて服も寝巻きらしき白い着物に着替えさせられていた。
部屋は広く、障子で囲まれた青い畳の上に布団を引いて寝かせられていたようだ。
(どうなったんだ? は……)
確かに海神に食われたのに。腹の中でもなさそうで、ローはどうにか状況を確認しようと起き上がった。
枕元に置いてあった鬼哭と帽子を手に、廊下に出る。
縁側からは見事な庭園が見えた。人工の小さな川に鯉が泳ぎ、朱塗りの小さな橋がかかっている。錦に色づいた楓の木が見事で、広い建物が王宮だと気づいた。
「キャプテン! 気がついたんだね……!!」
粥の載った盆を落っことして、号泣したベポがしがみついてきた。重いし痛いがぐっとこらえて、ローは「どうなったんだ」と尋ねる。
「キャプテン、3日も目を覚まさなかったんだよ」
「海神に食われたはずじゃなかったのか? なんでこんなところにいる?」
「えっと、よくわからないんだ。俺も確かに食べられた気がしたんだけど、気がついたらみんなアワジ島であのまま意識を失ってた。で、ええと……イナリとマリオンのお兄さんを捕まえて、今は牢屋に入れてるよ。ブラッドリーはウニがロボごと爆破したって」