第9章 ヘイアン国
「待ってて、いま助けるからね!!」
具合悪そうにぐったりしているを一秒でも早く解放しようと、ベポとペンギンは鎖を壊そうと試みた。
しかし海楼石で出来た鎖は、岩で叩いても、ナイフをテコのように差し入れても、いっかな壊れそうになかった。
「無駄よ。海神に生贄が食われたあとも遺体が残るように作られた鎖よ? 壊れるわけがないわ」
くすくす笑ってイナリはベポたちにゆっくりと近づいてくる。
「ねぇその毛皮、どうなってるの? 着ぐるみ? 着心地良さそうね」
「着ぐるみじゃないよ!」
「そう? じゃあ生皮剥がさないとコートに出来ないかしら」
イナリは短剣を取り出した。ぞぉっとしてベポは後退る。貸してとか洗濯するとか散々には言われたが、生皮剥ごうなんて言われたのは初めてだった。
しかもイナリの目は本気だった。動物を殺して毛皮を剥ぐことなんて彼女は何とも思っていないのだ。
「ベポの毛皮は剥いじゃダメ……っ」
手枷を軋らせては怒った。
「ああ、やらせやしないよ」
ペンギンが武器を構えて前に出る。だがイナリはいささかもひるまなかった。
するりと着物の下から小さな狐が何匹も這い出す。それは一斉にペンギンに襲いかかり、噛まれたペンギンは激痛とめまいにうめいた。
「毒よ。死にはしないけど、3、4時間は苦しむわ」
ペンギンが動けなくなると、小狐たちは次は一斉にベポに襲いかかった。
「わー!!」
頭を振ってベポは狐をなんとかはたき落とそうとする。その様子を見てイナリは腹を抱えて大笑いした。
その声があまりに不快で、はイナリめがけて近くの小石を蹴り飛ばした。
「私のクルーに手を出さないで……っ!! 傷つけたら許さないから!」
小石は大した威力ではなかったが、すっかり気分を害されてイナリはに歩み寄った。はだけた服の下から見える肌に小刀の切っ先を埋め込み、そのまま上へと引き裂く。
「許さなかったらどうするって言うのよ」
答えたのはではなかった。
怒りの咆哮を上げて視界を覆う巨大な壁が海から飛び出す。
その姿は真っ黒なイルカに似ていた。ただしその巨大さは天を突き、軍艦がすっぽりと入ってしまいそうな目は怒りに燃えてイナリを見下ろしていた。