第9章 ヘイアン国
だから全員斬るのだと、タツオミには迷いがなかった。その対象はローだけでなく、の鎖をなんとか壊して助けようとしているベポとペンギンまで含まれている。
「儀式が第一なのはわかるよ。だからって何だってイナリなんかと組んでんだよ!? そいつが何したか知らないのか!? じいさまと親父を殺したのもその女なんだぞ!!」
「二人を斬ったのは俺だよ」
平然と、まるで今日の夕食の話をするかのように、タツオミは告げた。ローの服を掴んで止めていたマリオンの手から力が抜ける。ずる、とそのまま彼は地面に座り込んだ。
「な、何言って……」
「意見の不一致だった。先に激高して刀を抜いたのは二人だよ。仕方がなかった」
タツオミの言葉は平然として、残念がっているようにも聞こえなかった。呆然とマリオンは兄を見る。
「最初からイナリと組んでたのか? ブラッドリーが襲撃したあの夜以前から……?」
「そうなるのかな。組むというか、俺は儀式が成功する可能性が高いほうを取りたかっただけ。二人にはそれが理解されなかった」
兄の言葉をマリオンは理解することができなかった。
奴隷を100人仕入れるというイナリの提案は最初から失敗が前提だった。どうしてそれが成功する可能性が高いほうになるのか。
「王を見つける自信がなかったのか……? 兄貴でも? ならそう言ってくれれば良かったんだ! いつだって兄貴は完璧だったから、王を見つけるのさえ楽勝だと思ってた。言ってくれれば、俺だってマルガリータだってみんな、出来ることは何でもしたのに!!」
初めてタツオミは人間らしい感情をその整った顔に浮かべた。それは弟に対する同情だった。
「お前は長子じゃないから知らないんだな」
「何を……」
「いいか、この国に王がいたことなんか、一度だってないんだ」
悲鳴が響いてきて話は中断された。悲鳴はを助けようとしていたベポたちのものだった。
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