第9章 ヘイアン国
ロボは地上三階ほどの高さだが、残念ながら地下の工房がせまくて中膝状態だった。ためらわずブラッドリーは普段はカンヌキをして厳重に封鎖している扉をロボパンチでこじ開け、外に出る。
外はいい天気だった。ロボはブラッドリーの思うがままに動き、いい気分この上なかった。
「気に入ったー!?」
下から製作者のウニが笑顔で手を振っていた。
「お前は素晴らしい人形師だ。存分に褒美をくれてやる」
心からブラッドリーは賛美した。
「僕も過去最高の出来だから満足だよ。だから壊すのは本当に残念だけど、仕方ないよね」
ん?とブラッドリーが思った次の瞬間、ウニはスイッチを押し、ロボは操縦者ごと爆発した。
88.最後の言葉
儀式の島に剣戟の音が響く。
「ハァ……ハァ……ッ」
「痛そうだね、右手」
調子の上がらないローとは対象的に、マリオンの兄タツオミは余裕そのものだった。
(こうも同じ顔されてると調子狂うぜ)
そういう家系なのか、マリオンとタツオミは本当に見た目がそっくりだった。違いといえばタツオミのほうが背が高いことと、表情が落ち着いていて理知的であることくらいだ。(それが大きな、そして致命的な違いであるわけだが)
歌姫にやられた傷が深く、ローの調子は悪かった。とくにブラッドリーに刺し貫かれた右手は傷が開いて包帯が血でほどけ、握力も落ちていくばかりだ。
しかもどういうわけか、タツオミには能力による<切断>が効かなかった。おそらく刀を覆っている本人の<気>のようなものが原因だろう。あれに弾かれてさっきから斬撃を阻まれている。
「残念。そのケガがなけりゃ、もう少しいい勝負が出来ただろうに」
ふらつくローにタツオミの刀が迫る。そこへかばうようにマリオンが飛び出してきた。
「何やってんだよクソ兄貴……っ!!」
苦悶に満ちた、心からの叫びだった。
「……危ねぇだろうが、出てくるな」
ローはマリオンを下がらせようとしたが、マリオンはしがみつくようにしてローの前から動かなかった。それはローを守るためだけというより、戦いそのものを阻もうとしているようだった。
「海賊に儀式を邪魔されたくないんだよ。せっかくの王候補を連れて行かれちゃ困る」