第9章 ヘイアン国
散々煮え湯を飲まされてきただろう歴戦の大将と中将が怒り狂うロッティをなだめた。
「やけ酒だー!! 酒持ってこーい!!」
「ロウちゃんあんたさっき……まあいいけど」
仕事になりそうにないのでまだ昼間だが飲みに連れて行こうかとクザンが「やれやれ」となだめ役を引き受ける。当然のように付いてこようとした狂犬は追い払った。
「前科持ちはお断りだよ」
「そんな大将にお任せするなんて恐れ多くて」
邪魔するなら殺るぞこの野郎と目が言っていた。狂犬やばい。
「んー……?」
ロッティがぶちまけたブラッドリーの資料を拾っていたガープが、一枚の写真に目を留めて考え込んだ。
「はて。どっかで見た顔じゃの」
「ブラッドリーの手がかり!?」
変わり身の術のようにロッティが食いついた。
写真はブラッドリー率いる人形海賊団の海賊船を遠目から撮影した貴重な一枚だった。人形にまじって小柄な老人が一緒に働いているのがかろうじて見て取れる。
「ブラッドリーは人形の製作と修理をさせる人形師を何人か船に乗せています。その一人では?」
ツバメが部隊内での推論を述べる。
「いや……この目は海賊だ。間違いない」
老人のドブのような目を見てガープは断言した。この目をどこかで見た。
金色のシキのように執念深く、願うのは破滅と破壊だけ。陽気さはなく、若かりし頃とはいえ捕まえるのは一苦労だった。
まだ名もなき海賊だったそいつら捕まえるためにずいぶんと無茶をした。仲間には大げさだったと笑われたが、捕まえた時に得たものは安堵だった。こいつはいずれ必ず世界に災いをもたらす。今捕まえられたのは僥倖だったと思ったのだ。
「ああ、そうだ。間違いない。こいつは儂が捕らえてインペルダウンにぶち込んだ海賊だ。もう50年以上も前か」
「へぇ。名の売れた海賊だったんですか?」
横から写真を覗き込んで、見覚えがないな~とクザンは首をひねっている。
「当時はまだ名が売れておらんかったからの。インペルダウンで脱獄未遂を繰り返して、そのたびに刑期が伸びていたはずじゃ。結局40年以上服役して、10年ほど前にシャバに出たんだったか。もう90近い年寄りのはずだ」
「……ツバメ君、ブラッドリーが手配されるようになったのは?」
「大体10年前ですね」