第9章 ヘイアン国
二人で話し合えと放り出したいが、そうして突き放すには問題も多かった。ツバメは肝心なコミュ力がとにかく低いし、ロッティは過保護な中佐がいたいけな少女の「お嫁さんになってあげる!」を本気にして徹底的に彼女に好意を寄せる男を排斥したので美人のくせに破滅的に恋愛経験値が低い。
ツバメが年齢に見合ったアプローチの仕方を覚え、ロッティがそれにきちんと応えられるようになるまでの道のりは長そうだった。
「とりあえずこれは廃棄で」
ツバメが持ってきた婚姻届を凍らせて処分すると、「こいつ絶対いつか夜道で足がつかないように後ろから刺し殺してやる」みたいな目で見られた。恨みなんて海賊だけでお腹いっぱいなんだから勘弁して欲しい。
「ロウちゃんはしばらく禁酒しなさい」
クザンが言い聞かせると、ロッティはこくこくと何度もうなずいた。地味にツバメが心から傷ついた顔をして面倒くさい。
「お、いたいた。嬢ちゃん、お前さんが捕縛した海賊、世界貴族の使いに連れて行かれたみたいじゃぞ」
20杯分はありそうな山盛りカレーを持って言いに来たのは伝説の中将ガープだった。めそめそしてたのも忘れてロッティは立ち上がった。
「アルゴールが!? なんで!?」
ツバメまでびっくりして完全に顔が仕事モードになっている。
「もともと生け捕りのみの海賊だったろう。ヤクヤクの実で作り出す『若返り薬』を欲しがるお偉いさんが大勢いるんじゃろ」
「若返り薬って……だってアルゴールってしわくちゃのお婆ちゃん――」
「あ、それ、海軍の捕縛を逃れるためにわざと老けた姿をしてたらしいです。持病があるからって言って護送船の中で薬飲んだら、90過ぎのババアなのに30代のピチピチ肌になってましたよ」
ツバメの報告にアラサー目前のロッティはわめいた。
「そんな薬私だって欲しいわーっ!!」
そんなもの飲まなくても十分でしょ、とツバメは勇気を出して言おうとしたが、その前に怒り狂ったロッティが資料をぶちまけた。
「アルゴールを足がかりにブラッドリーまで捕まえるつもりだったのに……!!」
怒り狂ってロッティはギリギリと体をよじった。趣味のホットヨガの成果か、蛇みたいに体がぐにゃっている。
「まあまあ」
「いくら正義を掲げようと、この仕事、権力にままならん思いすることは多いぞ」