第9章 ヘイアン国
「そんな……僕は上官に言われたから仕方なく。ベッドでのロウさんと来たら優しさの欠片もなくて。あんなことやこんなことまでされて……僕もうお婿に行けないんです」
わざとらしくツバメは泣き真似してみせた。ロッティは「助けて」と海賊に捕まったいたいけな村娘のような目でクザンを見てくる。
よりにもよってたちの悪さは海賊より数倍ひどい相手だった。
ちょっと座んなさい、とクザンはかき氷を一気食いしたみたいな頭痛を覚えながら尋問モードに入った。
「誘ったのはどっちから?」
「大佐です」
「覚えてないの……」
「……避妊は?」
「僕はしたかったんですけど、ロウさんたらそんな暇も与えてくれなくて」
恥ずかしそうにツバメは告白した。身に覚えのないロッティはがなりたてる。
「少なくとも妊娠してないし! 未遂の可能性もあるし!」
「え。そりゃ、あんなプレイじゃ妊娠はしませんよ」
「いやぁ!! 私そんなマニアックな趣味ないから!」
「あれをマニアックじゃないと? さすがの僕でも○○を××されて△△まで□□されるなんてはじめての経験だったんですけど……本気になったらもっとすごいんですか?」
「期待するような目で見ないで!! 普通だから! あなたが期待するようなことなんて私絶対できないから!!」
わーんとロッティはクザンに泣きついた。だいたいの構図が見えてきてクザンはうんざりした。
「正直に言いなさいよ。……薬盛った?」
「さあ、なんのことだか」
満面の笑みでツバメはすっとぼけた。年中むすっとして上官だろうと先輩だろうと小馬鹿にしていた男がえらい変わりようである。
(あーもう、こいつ本当に心の底からロウちゃん好きなんだろうな……)
ただしその愛は歪みまくっている。壊れているとも言えるかもしれない。
「ロウちゃんこいつに襲われる前、なんかしでかさなかった?」
「え、なんかって何?」
「彼氏作るとか」
「ええと――」
考え込んだロッティに、目が笑ってないツバメが狂気に満ちた笑顔で答えた。
「サボテン咲いたから合コンするとか言い出すからですよ」
どうやらそれが動機らしい。当の本人はツバメの責任取れストーキングですっかり忘れていたのか、「そういえば」なんて言っている。
(アホらし……)