第1章 奴隷の少女
「従わなければただ殺されるだけ。私が拒めば他の子がやらされる。あなたもラウザーと同じ海賊なのに彼をクズだと非難するの?」
少女の首輪が甲高い音を鳴らし始める。成否を見ていたラウザーが、失敗した奴隷を処罰しようとしているのか、この距離ならローの命も狙えるとまだ諦めていないのか。
「キャプテン逃げろって! 爆発するぞ!」
自分の死期を伝える首輪の音にも、少女はもはや反応しなかった。ただ黙って、運命を受け入れている。何もかもを諦めたような顔で。
救いも、希望も、未来も、彼女は何も信じていない――。
「……っ!!」
刺された痛みも忘れるほどの怒りと共に、ローは少女の首を能力で切り離した。決して外れぬはずの首輪を投げ捨て、元通りに首を戻してやると同時に、奴隷を罰する首輪は爆発した。
「え……?」
目の見えない少女には何が起こったかわからないようだった。説明してやる義理もなく、ハートの海賊団船長は仲間たちに号令をかける。
「行くぞ、グランドラインに入る前の肩慣らしだ。――ラウザー海賊団を潰す」
おお、と彼の仲間たちはそれに応じた。血気盛んに武器を取り、敵を討ち取るべく勇んで駆け出していく。
少女――は状況が飲み込めずに、何年かぶりにスースーと冷気を感じる首を触る。そこには長年自分を支配していた首輪はもうなかった。
「拾った命をどうするかは好きにしろ」
突き放すような低い声。その意味を理解するのにずいぶんかかり、自由を信じるにはさらにもっと時間がかかった。
「キャプテンはまずその腹の傷、手当したほうが」
「こんな傷で死ぬかよ。ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと行くぞ」
「でもキャプテン、顔真っ白だよ?」
「美白を心がけてんだよ、問題あるか」
彼がことさらに強がるのはが聞いているからだ。刺された傷など大したことないと、が罪悪感を持たないようにしているのだ。