第9章 ヘイアン国
絶句して呆然とするマリオンを「縛って船倉に転がしとけ」とローはクルーに命じた。ごめんと言いつつ、シャチとペンギンが言われたとおりにする。
「待ってよキャプテン! これじゃ俺が国に帰ってきた意味がない!! 責任があるんだ! やらなきゃいけないんだよ……っ!!」
仲間なら本当はその決意を尊重してやるべきなのかもしれない。でもそれが国のために殉じる覚悟だというなら、どうしても協力は出来なかった。
「お願いだよマリオン。もう仲間が死んじゃうのは嫌だよ……っ」
ベポが泣きながら懇願すると、マリオンは喚くのをやめた。
何もかも狂ってしまったのだ。が海の底へ引きずりこまれたあの夜に。
80.アワジの巫女たち
「アワジ?」
ようやく言葉を聞き取れるくらい回復した耳を寄せるようにして、は自分が今いる島の名前を繰り返した。草のいい匂いがするお茶をすすりながら、リリは「そうよ」とうなずいた。
「私もまだよくは知らないんだけど……神様に仕える巫女の住む島だそうよ。神様が怒りを鎮めてくれるよう、ここでお祈りするのが私達の仕事」
リリの声は穏やかで朗らかだった。
(うーん……?)
不審を顔に出さないよう気をつけながら、は考え込む。
(お祈りってあの、一日一時間くらい手を合わせて呪文を唱えるあれ? 神様ってずーっとご機嫌ナナメで暴れては大波立ててる海王類?)
縁側に座って、ニコニコとリリはお茶をすすっている。
「このヨーカンっておいしいわね。も食べて。あ、お皿の位置がわからない?」
親切にリリはお茶請けが乗った小皿をの手に触れさせてくれた。
「これが楊枝ね。使える? 大丈夫?」
「大丈夫……」
羊羹を口に放り込んでもあまり味わう余裕がなかった。
(そんなお手軽な仕事で三食おやつが出てくるわけないよねぇ……)
リリをはじめ、セブタン島から連れてこられた奴隷の少女たちは何も疑っていないようだが、奴隷歴の長いは現実を知っていた。こんなもので丸め込まれたりはしない。おいしいけど。
(ここに居たら生贄にされちゃう。でもリリに言っても信じないだろうなぁ……)