第9章 ヘイアン国
イナリは囮だ。本人が自覚しているかは知らないが、派手に遊ばせて腹に据えかねた連中を釣り出すエサにしているんだろう。討とうと狙えば、ブラッドリーの罠が待っている。
「イナリは無視してブラッドリーを狙うべきってことね。でもどうやって?」
――私が囮になるよ。
を失ってから初めて、ローは彼女がいなくてよかったと思った。一度言い出したらは聞かない。
『溶岩に落っことしたからブラッドリーは私にすごく怒ってた。全身の生皮剥いで人形にしてやるって言われたもん。私が囮になれば怒って出てくるはず』
絶っっっ対ダメだ。許可する理由がなにひとつ浮かばないのに、それでもを説得できる気がしない。
『を囮にするくらいなら僕がやる! ブラッドリーの人形を爆破したのは同じだし、これでもカトパターク一の人形師だったんだ。ボコって一生強制労働させられるくらいには、あいつを怒らせた自覚あるよ!』
ウニまで主張し始めてローの脳内はカオスになった。
さらに脳内でが怒る。
『ウニを囮にするなんて絶対ダメ!! 私スイレンとウニを守るって約束したの! そんなこと絶対させないから! 囮をやるのは私!』
どっちもダメだと言っても聞く気がしない。特にが。
『船じゃ私が先輩! ウニは言うこと聞かなきゃダメ!!』
(その理屈でいけば俺は船長だろ)
『私は船長の命の恩人だもん』
ダメだ。縛り付けておく以外に止める方法が浮かばない。縛り付けておいたとしてもは絶対脱獄するだろう。うちでに勝てるクルーはいない(船長含む)。
『……私のこと守ってくれるでしょう?』
(ずるいだろそれ……)
当たり前以外の選択肢がない。そしてそれを認めた瞬間、の勝利は確定する。
「……どうしたの、ひどい顔して」
リトイに怪訝そうに顔をうかがわれ、ローは低い声でぼやいた。
「勝てる未来が浮かばない」
「え、そんな弱気じゃ困るわよ! しっかりして!」
「ブラッドリーじゃない……」
嘆息してローは顔を覆った。ますますリトイは困惑する。