第9章 ヘイアン国
(そのほうが平和だったかもな)
リトイが刺したハートの海賊団のマークは、お世辞にも似てるとは言えなかった。別の意味で恐怖を抱くが、正直、裁縫が得意だという隣家の娘がさっさと仕上げた他の着物がうらやましい。
それでもやり直せとも言えないので、ローは憮然とリトイが仕上げた狩衣を着ていた。
(恥ずかしいとか考えるな。が縫ったと思えば……)
彼女が縫ってくれたのなら出来なんて関係なかった。見せびらかす気分で誇らしく着ていただろう。
そんなことをいちいち考えては、未練がましく喪失の痛みを感じる自分にローはうんざりした。
(考えるな。今はブラッドリーを倒す作戦に集中しろ――)
リトイとシュンはその気になれば号令一つでレジスタンスを蜂起できると言う。それを止めるための兵士もほとんどが心情的にはレジスタンツ側。
敵はブラッドリーの人形と、イナリに与して利権を吸いたいクズだけだ。
生活スペースとなっている二階に上がって、リトイは地図を広げた。王宮内の見取り図だった。
「イナリが居るのは王宮の最上階、王の生活スペースよ。そこで王の着物や装飾品を毎日とっかえひっかえしては、イケメンたちと酒飲んで楽しくやってるらしいわ」
「ブラッドリーは?」
「さあ。イナリと趣味が合うなら一緒に楽しんでるんじゃない? 王宮内にもぐりこんでる仲間によれば、イナリの側にはキツネ面が常に何人か一緒にいるらしいわ。決して仮面を取らないそうよ。何体かはブラッドリーが付けた人形の護衛でしょうけど、人間もまぎれこんでておかしくない」
リトイの話にローは考え込んだ。
ブラッドリーの顔は海軍にも割れていない。用心深く人形を身代わりにして、10年も正体不明を貫き通しているのだ。その性格は執拗で狡猾。
国盗りも終わっていないのに、馬鹿騒ぎに興じているとは思えなかった。
「奴の戦法はいつも決まってる。人形に戦わせて、自分は安全な場所で高みの見物。『的』になりやすいイナリと一緒にはいねぇだろう。むしろ歯向かう人間をあぶり出すためにイナリを目立たせてる可能性すらある。居場所が割れてるからってイナリを狙うのは悪手だ。奴の人形は自爆をためらわない。人間が相手にするには不利だ」