第9章 ヘイアン国
「本当なの?」
「……遅くにできた子で、先代と先々代がそりゃもう甘やかしたんだよ。ワガママ娘になるくらいなら可愛いもんだったけど、ダッキは生来の異常者だった。小さな動物を切り刻んでは遊ぶ子供だったんだ」
ゾッとしてウニは顔をひきつらせる。
「ブラッドリーと気が合うわけだね」
「先代と先々代が早くに病死してイナリ家を継いだら、そこからはやりたい放題だ。代わりになる神官がいないから、儀式までは糾弾できなかった。終わったら3ケタの罪状で牢屋行きのはずだったんだよ。それをわかってて、あの女はブラッドリーと手を組んだ」
ブラッドリーは人形海賊団の船長として名を知られていた。船に乗るのはすべて人形。人間をまったく信用していないらしい。
腕のいい人形師をさらって、どこかに監禁しては自分の手足となる人形を作らせるのを繰り返し、その悪質な手口から高額の懸賞金が掛けられたが正体は不明。手配書の写真はころころと何度も切り替わっていた。おそらく人間そっくりの蝋人形を自分の身代わりにして、海軍の追撃を逃れているのだろう。
「ブラッドリーにもイナリにも、俺の国を好きにはさせない」
標的に近づいて近視眼的になっているマリオンを止めようと、それとなくウニは仲間の手を掴んだ。
「……また爆弾持って突っ込んじゃダメだよ」
「え!?」
不穏な単語にハンゾーが飛び退く。
「反省したよ。爆弾魔はちゃんだけで十分だ」
「あなたたちの船、一体何人爆弾魔を乗せてるんですか」
「はいいんだよ。突っ込む前に船長が止めるから」
「俺は?」
「……そこまで愛されてる自覚ある?」
はうっとマリオンは大げさに傷ついた声をあげた。
「仕方ないだろー。ちゃんの愛らしさには誰も勝てない。つまり船長の愛もちゃん一択」
「……怪しいよね。絶対セブタン島であの二人なにかあったよ」
「ウニ……お前哀れな引きこもり少年だったのに成長したなぁ」
「……だから余計に、辛いんじゃないかと思うんだ」
血の気を引かせてずっと船から海を見ていたローの姿が焼き付いている。誰よりも助けに行きたいのに、悪魔の実のせいで海にも入れないのはどんなにもどかしかっただろう。