第9章 ヘイアン国
リトイが息を呑む。それにかまう余裕もないほど、ローは打ちのめされていた。
『キャプテン、人形いじめちゃダメだよ』
だってこれもブラッドリーのスパイで、動き出すかもしれないだろ。がいたらしれっと言い返すこともできるのに、ただ黙って顔を覆うことしかできなかった。
もういないなんて信じられない。その事実を受け入れられない。
約束の隣町でずっとコラさんを待っていた時のように、ローは現実を拒んでいた。
(なんで……)
本当に大事だったのに。家族も、コラさんも、も。なのにみんな、自分を置いて行ってしまう。
頬に手が触れ、ローは顔をあげた。ローがどんな顔をしてるか、いつもがそうやって確かめていたから。
けれどそこにいたのは瞳を揺らした整った顔の少年――リトイだった。男とは違う匂いに、今更ながらローは自分の勘違いに気づいた。
「女か」
ローの指摘にリトイは少なからずひるんだ。リトイの格好は間違いなくこの国の男のもので、彼女が男装していたのは間違いない。正体がバレるのは予想外だったのか、リトイは気まずそうに視線をそらした。
以外のなぐさめはいらなかった。ローは雑にリトイの手を振り払うが、おかげで少し冷静さは取り戻した。
「……商品をダメにして悪かったな。弁償する」
「いや、いい。それより妹をたぶらかさんでもらいたいんだが、客人」
店の奥から着物の入った木箱を持ってきて、若い店主はげんなりと言った。
「トラファルガー・ローだ。……悪いがあんたの妹は好みじゃない」
「なんだとてめぇ。うちの妹のどこが不満だ」
一瞥もせずに言い切ったローの胸ぐらをシュンは掴み上げた。
「やめてよ兄さん!」
怒りと困惑を半分ずつまぜてリトイが止める。年頃はと同じくらい。女として認識すれば、間違いなくかなりの美人だった。だから何だというのか。
「一人以外はいらない」
自分でも驚くほど沈みきった声が出て、シュンも手を離した。
「……亡くなったのは、その人か」
ローは答えず、服を選んだ。
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