第2章 グランドライン
「ブカブカだろ。男物だし」
「……着られて着替えがあれば上等だから考えたことなかった。前はいつも、ほとんど裸だったし」
何の想像をしたのかシャチが鼻血を吹いた。ペンギンが呆れてこぼす。
「お前の裸見たことあるのに、何を今更想像で鼻血出してんだ……」
「だ、だって……」
「はもう中に入ってろ。戦闘前だってのに緊張感がどっか行く……」
額を押さえて船長に力なく言われ、さすがのもおとなしく従った。
◇◆◇
「ベポは何があっても甲板にいろ。誰一人中に入れるな」
「アイアイ、キャプテン。俺を守るよ!」
のいる船室へつながる扉の前で、ベポは気力も十分に拳を握った。ベポが指示の裏の意味まで的確に認識するのは珍しい。
「シャチとペンギンは俺と来い。向こうの船長と交渉だ」
「アイアイ、キャプテン」
船同士の接舷まであとわずかだ。一応今のところ、大砲の用意をしていた割に向こうは撃ってきていない。
だからといって油断もできなかった。向こうの狙いが白兵戦なら、接舷した瞬間に戦いは始まるだろう。
向こうの海賊船はハートの海賊団の潜水艦・ポーラータングよりひと回り大きく、船員も20~30人規模のようだ。だが手練れた能力者や戦闘の達人がいた場合、人数は大した意味を持たない。
張り詰めるような緊迫した空気の中で、両船は接舷した。
「俺達はフッカー海賊団! 物資の交渉がしたいらしいな。何が欲しい?」
頭を出したのは船長帽をかぶった筋骨隆々の大男だった。立派なひげをたくわえ、右手は鉤爪。いかにも海賊という風貌の男だ。
ローが前に出て交渉にあたった。
「俺がハートの海賊団の船長だ。ログポースの予備があれば譲ってもらいたい」
「ログポースを!? 正気かお前、このグランドラインを指針なしで航海してたのか!?」
「事故で予備ごと壊れた。難儀してたのは事実だ。譲ってもらえたら相応の礼はする」
グランドラインに入ったばかりと白状して立場を危うくするのを避けるため、ローはウソをついた。戦闘になればいらぬケガ人を出すのも事実だ。金で引き換えられるならそのほうがいい。
幸いネモ博士からの報酬で、ハートの海賊団は資金的には余裕があった。