第9章 ヘイアン国
「……!!」
手元に入れ替えようとしたものの、怒ったハルピュイアたちに群がられ、身動きが取れない。
目も耳も使えず、落ちていく浮遊感に身を縮めて、は夜の暗い海に落ちていく。
「離せ……!!」
ロー自身も落下しているが、ハルピュイアの爪が服に引っかかって、もがく人面鳥のせいで上がったり下がったりを繰り返している。
刀を振り回してもハルピュイアを興奮させるばかりで振りほどけない。
「……!!」
が海に落ちるのと同時、ペンギンたちも甲板に飛び出してきた。
贅肉の重みで持ち上げられずにつつき回されているベポよりもの方が危ないと気づき、マリオンが救命用の浮き輪を持って夜の海に飛び込んだ。
は船で一番の泳ぎ上手だ。目が見えなくてもそれは変わらず、海に落ちても彼女は冷静に海面に顔を出した。
「ちゃん! すぐ行くから……!」
聞こえないのを忘れているのかマリオンが叫び、必死にのもとへ泳ぐ。
その目の前で、白い腕がを海中に引きずり込んだ。
一瞬だけ見えたのは間違いなくシーレーン。船を襲った獰猛な海の怪物だった。
「ちゃん……!!」
浮き輪を捨ててマリオンが海に潜る。出てこない。人魚のなりそこないとも言われるシーレーンの遊泳速度に勝てるのは、本物の人魚だけだ。
「離せ!! カウンターショック!!」
自身を掴むハルピュイアを黒焦げにさせて、ローは海に飛び込んだ。
(……!!)
暗い海に必死に目をこらして彼女の姿を探す。
無音の暗闇でもはローを見つけてくれた。同じことができないわけないだろうとローは自分を責める。
探しに行かなければならないのに体が動かない。息が苦しい。前に進みたいのに呪われた体は沈んでいくだけ――。
窒息する寸前でローは強い力で引き上げられた。
「何やってんですか! あんたが飛び込んだってどうしようもないでしょうが!!」
ポーラータングの甲板だった。咳き込んで水を吐きながら、ずぶ濡れで怒鳴りつけてくるペンギンをローは呆然と見る。