第9章 ヘイアン国
「あれ? ベポ落ち込んでる? キャプテン何か言ったの? いじめちゃダメだよ」
「いじめてない」
ひどい誤解を否定するも、には聞こえていないので、ローはいじめてやろうと彼女の髪をわしゃわしゃ撫でた。「きゃー」と明るい笑い声をあげて、はベポの首を叩く。
「ベポ発進! シロクマパンチだ」
「やだ。海に放り込まれるの俺だもん」
ベポがパンチする気配がないので、は首を傾げながら「ベポ、パンチは? 忘れちゃったの? アイアイだよ」と再度首を叩いて急かす。
面白いのでずっと見ていたいが、そういう訳にもいかない。ローは片手でベポの目を隠すと、に短くキスして、甲板に送り出した。
すごく怒ってたが、聞こえない振りをしておこう。
◇◆◇
「……で?」
手術台の上に座らせられたマリオンは、これから生きたまま解剖されるんだろうかという青い顔で、目を泳がせている。
持ち込んだイスに座って腕を組む船長の眼差しは、ベポやに向けるものとは別人かと思うほど冷たい。
「キャプテン、セブタン島でちゃんと何かあった?」
「もっと喋りやすくしてやろうか?」
鍔を持ち上げて抜刀の構えを見せると、マリオンは「ごめんなさい全部白状します!」とわめいた。今にもちびりそうだった。
「えーとえーと……」
よほど気まずいのか、マリオンは目を泳がせたまま指をつつき合わせる。
「……最初にこの船に密航したのはが目的だな?」
頷いたら殺されてしまうという顔で、だらだらと汗をかきながらマリオンは「何ノコトデショウ」とすっとぼけた。降伏したはずが、どこまでも往生際が悪い。
「マルガリータからのことを聞いて、一緒にいたくて船に乗り込んだとかほざいてやがっただろうが」
「……さすがちゃんのことは地獄の記憶力」
「あ?」
「何でもないです!」
刀を抜かれてマリオンはヘコヘコと頭を下げた。ローには別にクルーを切ろうという気はなかった。ただなんとなく抜刀したくなっただけだ。