第9章 ヘイアン国
「そうだよ。国中、あるいは世界中を探し歩いても王の素質のある人間を探すのがコマ家の役目だ。そうして探し出した王候補を、イナリ家の神官が神につなぐ。イナリは儀式を失敗させて、それをコマ家の選定が誤っていたと言うために俺を探してるんだ」
「なぜです? 儀式を成功させなければならないのはイナリ家も同じはず。神がひとたび暴れれば、抗うすべは誰にもないのだから」
「……裏技があるんだよ。500年前の儀式は失敗したんだ――コマ家が選んだ候補を海神は受け入れなかった。代わりに100人の生贄を食って眠りについたんだ。心を喰われた生贄は廃人になって、死ぬまでひたすら予言を吐き続けたらしい。イナリはそれを狙って、セブタン島で奴隷を仕入れてる」
船に乗せられる奴隷を、ローもペンギンも目撃していた。それを見て取り乱すマリオンの姿も記憶に新しい。
マリオンは拳を握りしめる。割れたエターナルポースの破片が紛れていたのか、拳からは血が流れていた。
「やめろ。今から手をダメにする気か」
船長の言葉にハッとして、マリオンは拳を開いた。血がボタボタとこぼれて、「あー」とうっかり皿洗い当番でグラスを割ったような顔をする。
「巻いとけ。血の匂いをさせてるとが心配するだろ」
の手当てをしたときの包帯がポケットに残っていたので投げると、「まずはキャプテンが心配してよぅ」とマリオンは腰をくねらせた。
すり寄ろうとするので鬼哭でペンギンのほうに押しやると、はいはいとペンギンが代わりに手当を引き受ける。
「これ縫ったほうがいいかもですよ」
「穴の空いた靴下とマリオンのケガはペンギンの管轄だろ」
「ひどい! ミニベポがケガしたらもうちょっと真剣になるくせに!」
「真剣に海に放り込まれたいって?」
「……え、ぬいぐるみにそこまで嫉妬してるの? 引くわー」
マリオンは素でドン引きした。ローは立ち上がり、ネルセンに向き直る。
「ヘイアン国への案内が欲しいんだったな。コレをくれてやる」
「いやー! キャプテン見捨てないで!」
「イナリとやらに突き出すなり、枯渇した食料の足しにするなり好きにしろ」