第9章 ヘイアン国
「少し横になったほうがいい。吐き気が止まらないなら薬を出すから」
患者用のベッドに連れて行って毛布をかけると、は小さく丸まって目を閉じた。小動物のような寝方は、奴隷時代の名残のようだった。狭い船室に押し込められて、寒い日は奴隷仲間と身を寄せ合って眠ったのだと彼女は言っていた。
一緒に眠ると暖を求めてすり寄ってくるだが、今日は一人なので心細そうに代わりにローの手を握る。
「おやすみ」
反対の手で毛布の上から体をさすってやると、すぐにうとうとしては眠りに落ちた。
相変わらず船はひどく揺れているが、それくらいで眠れないようでは船乗りなどやっていられない。特には奴隷として人生の半分ほどを船で過ごしているので、船の誰よりこういう時の神経は太い。
『キャプテン、進路に船! 救難信号を出してて、こっちに助けを求めてます!』
伝声管からペンギンの声がして、ローはベポを呼ぶとが起きないように伝声管にフタをした。
そっと手を引き抜くとぴくりと一瞬動いたものの、寝息は変わらず、は眠り続ける。
やってきたベポは、の忘れ物を持っていた。
ローと同じ帽子をかぶったそれを胸元に置いてやると、は無意識に抱き込んだ。こんな時じゃなければ海に放り込んでやりたいと思いつつ、起きた時にラウザーの船と間違えないように、その役目をぬぐるみに任す。
「についてろ。起こすなよ」
「アイアイ。添い寝してもいい?」
「ダメだ」
残念そうに肩を落とすシロクマにを任せて、ローは入れ替わりでブリッジへ向かった。
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