第9章 ヘイアン国
シーレーンは群れで行動する。興奮する仲間の声に次々と怪物たちは集まり、中には三叉のような武器を持った個体もいた。彼女たちは高い知能で、潜水艇の弱点である窓を狙い、執拗に攻撃してくる。
勢いをつけてぶつかられると船全体がグラグラと揺れ、「浮上しろ!」とローは目も耳も利かず、緊迫した空気だけを感じ取って動揺しているを抱きながらクルーに命じた。
海上は大嵐だった。荒れる波をかぶって船はひっくり返りそうなほど揺れる。
しかも悪いことに、シーレンは海上まで潜水艇を追ってきた。荒れ狂う波をものともせず、群れで船を取り囲んで金切り声を上げている。
「機関室! 振り切れるか!?」
「無茶言わんでくれ! 急浮上でエンジンに火が付きそうなんだぞ、これ以上は無理だ!!」
伝声管で呼びかけるペンギンに、ゴンザが怒号を返す。
90度近くまで傾いては反対側に揺れるを繰り返す船で、が転ばないよう抱きしめて支えながら、ローは横から命じた。
「ウニ、魚雷を出せ!」
「ええっ、虎の子の一発だよ!?」
潜水艦用の魚雷は安易に手に入る代物ではない。ネモ博士から船を譲り受けた時に積まれていた魚雷は、ここまでの航海で2本にまでその数を減らしていた。そのうちの一本はウニが「構造がわかれば作れるかも」と分解してしまったので、正真正銘、最後の一本だった。
「取っておいても船が沈んじまったら意味ねぇだろ!」
「りょ、了解!」
船の傾きに船乗りとしてまだ経験は浅くても沈没の危機を察したのだろう。ウニがバタバタと用意をする音が伝声管の向こうから聞こえてくる。
照準を担当するシャチが、動き回るシーレーンを捕らえきれずに青い顔でローを振り返った。
「キャプテン! シーレーンは魚雷より速い、当たるとは――」
「威嚇になればいい、撃て!」
他に現状を打開する方法はない。ローはシャチに魚雷の発射を命じた。