第9章 ヘイアン国
「もう……っ、みんなに聞こえちゃうよ」
小声では抗議した。船中いたるところに伝声管があるので、その気になれば盗み聞きし放題なのだ。ナギナギの実でもない限りこれを防ぐことは不可能で、が怒るのも無理はない。船で一番耳がいいのはだが、彼女じゃなくても不純異性交遊に関することを嗅ぎつける意味ではハイエナのようなクルーが何人かいる。
セブタン島で二人きりで何をしていたのかとずいぶん追求されたから、たぶん今も聞き耳を立てていることだろう。
承知の上で船長は意地悪く笑った。
「ベポとのケンカの練習の話だろ」
だから何も問題はないとばかりに自信満々に、しーとジェスチャーしながらローはの唇にキスした。
◇◆◇
「あれ。キャプテンなんだか機嫌いいですね」
「別に」
司令室で船長の顔を見るなり指摘したペンギンに、ローはいつもどおりのぶっきらぼうで答えた。
対象的にお気に入りのぬいぐるみを抱えてやってきたは明らかに不満顔で、ぬいぐるみの手を突き出して殴るジェスチャーをしている。相手は間違いなくハートの海賊の船長だった。
「、顔赤いよ。風邪?」
尋ねるベポに、こちらも「なんでもないよ」の返事が来る。なんかあったな、とペンギンとシャチは確信した。
海中は嵐でも、潜ってしまえば海の中は静かなものだった。
マリオンの持っていたエタナールポースとにらめっこしながら進路を確認するベポと、ソナーで聴音しているの横で、船長たちは今後の方針を練る。
ヘイアン国の地図を広げて、マリオンは国の立地を簡単に説明した。
「島は大きく分けて、本土と祭事が行われる島の二つで構成されてる。港は多いけど、全部国の直轄で兵が配置されてるんだ。今はそこにブラッドリーの人形も混じってるはずだ」
本土はちょうど、海に横たわるイルカのような形をしていた。地図を見る限り、イルカのくちばしの先に小さな島があり、本土から一本だけ掛けられた大きな橋が伸びている。それがちょうどイルカのくちばし部分になっているのだ。