第9章 ヘイアン国

「うっかりだ。誰でもやるだろ」

　肩をすくめる船長に、反省の様子はなかった。

「船の規則を守らない船長は解任だー！」
「へぇ、俺を解任して『もこもこ海賊団』を作るって？」
「ミニベポ船長の誕生だね」

　お気に入りのぬいぐるみは、ペンギンとウニの合作である船長帽をかぶっていた。すなわちローとおそろいの豹柄ふかふか帽子である。
　の腕の中でドヤ顔しているベポそっくりのぬいぐるみを、ローはビシビシ指ではじいた。

「こいつには絶対負けない」
「可愛さ勝負なら圧勝だもん」
「それ海賊の決闘方法じゃねぇだろ」

　船じゃいろいろ我慢を強いられているのに、こいつは夜もドヤ顔でと一緒に寝ているのだ。規則違反だと海に放り込んでやりたい。あと気に入りのもこもこクッションも。

「ミニベポいじめちゃダメ」

　しつこくローが攻撃し続けるので、は怒って船長からぬいぐるみを遠ざけた。しかしボクシンググローブを嵌めた状態ではうまく掴めないことに気づき、「キャプテン預かってて。いじめちゃダメだよ」と言い含める。

「約束はできねぇな」
「なんだとー！　そんな船長はこのグローブの錆にしてくれる！」
「血が出るまで殴る気か」

　わかったわかったとの頭を撫でて、「ほら天気が荒れる前に行ってこい」とローはを急かす。
　船は海上走行を続けているが、窓から見える進路上の空は嵐を予感させる黒い色に染まっていた。

『キャプテン、聞こえます？　嵐になりそうなので潜水したほうがいいってベポが言ってるんですが――』

　伝声管からペンギンの声が聞こえ、「ありゃ」とは足を止めた。一足遅かったようだ。

「潜水用意。すぐそっちに行く」

　ソナーの仕事にも向かおうとしたが、両手のボクシンググローブを外すのに苦労している。横から手を伸ばしてヒモをほどいてやりながら、「続きはまた今度だな」とローはの頭にキスした。