第8章 セブタン島
そんなことまるで知りもしない上官は、すっとぼけた顔で手なんか振ってくる。押し倒して乱暴してやろうかこの女。ボッコボコにされる未来しか見えないが。
「……腹は?」
「え?」
「3日も飲まず食わずで腹は減ってないですか?」
「そう言えば、ペコペコかも」
「……食事の用意をしてきます」
カルマートの先輩たちも容態を気にかけていたからついでに目を覚ましたと伝えておこうと、ツバメは医務室を後にした。
◇◆◇
(何なのかしら。便秘……?)
非常に残念な思考をしながら、ロッティはとりあえずとサボテンの入った籠を手元に引き寄せた。
「え……?」
もう10年以上咲いていないサボテンには、小さな赤い花が咲いていた。
ロシーと二人と見た記憶とは違う、布製の花だった。
(指の包帯……)
トゲに刺されながら、取り付けてくれた人間がいたことに気づいて、気づけば涙が伝っていた。
「ありがとう……」
咲かない花を待つのにもう、どこかで疲れていたから。
何があろうともうロシーは帰ってこない。でも待つのをやめたら彼が悲しむ気がして、前に進めずにいた。
「ロシー、私もう、前に進んでもいいかな……?」
自分で思うより人生は長くて、思い出だけで生きていけるほど強くもなかった。
彼みたいに無条件で自分を愛してくれる人なんてそうそういないだろうけど、一緒に生きていく誰かが欲しい。それを求めることを我慢するのはとても辛いから。
「大好きよ……っ」
彼を忘れるわけでも、大事じゃなくなるわけでもない。
でも生きていくにはどうしても、生きている誰かが必要なのだ――。
72.行く先
「。起きてたのか」
ローがホテルに戻ると、は毛布を羽織って落ち着かない様子でソファに座っていた。
「キャプテン……っ」
駆け寄ろうとして、彼女は進路上のイスにつまずいた。
「おっと」
抱きとめると、そのままはぎゅっとローに抱きついた。
「おかえりなさい」
ただ帰ってきただけなのに本当に嬉しそうな顔をされて、ほとんど無意識のうちにローはキスしていた。
「ただいま」
「……ケガしたの?」
匂いに敏感なは首の傷に触って心配そうな顔をする。