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白夜に飛ぶ鳥【ONE PIECE】

第8章 セブタン島



 相手より先に飲みつぶれているのは見たことがないが、一応男相手だし、性格はアレだけど美人だから心配だし、ニヤニヤ笑った先輩たちに「任せた」なんて言われるし、あんなんでも感謝はしてるし。

 でも酔いつぶれた彼女が寝言で呼ぶのは「ロシー」だけだ。
 大事にしてるサボテンも彼からの贈り物だと知って以来、捨てたくて仕方ない謎の欲求に取り憑かれている。

 相手が非の打ち所のない完璧な男ならまだ気持ちの整理もついたのだが、ドンキホーテ・ロシナンテ中佐は任務中に任務を放棄した海軍の裏切り者で、そんな男を彼女がずっと大事に思っているのが気に入らなくて、面と向かってボロクソに言ったら「何も知らないくせに」と言われてぶん殴られて逆にボロクソにされた。

 やり返そうと思えば出来たけど、一応上官だし、女だし、その上美人だし、なにより泣きそうな顔で殴られたら手も足も出なくて、それ以来禁句にしてはいるけれど、おかげでますます『ロシー』のことは嫌いになって、死んだ人間を殺すにはどうしたらいいか、後ろからこっそりロッティの頭を殴ったら彼のことだけ忘れやしないかと、アホみたいなことを真剣に考えるくらい本当に嫌いだった。

 彼は死んでいて、だから勝てなくて、一方で死んでいるから彼は絶対に生きている自分には勝てなくて、今ロッティを守れるのは自分だけだと思っていたのに――爆発で倒れた彼女に何も出来なかった。

 ロッティを救ったのはトラファルガー・ロー。かつてロシナンテ中佐に救われた人間。
 まるで時間を超えて、死んでる事実なんてものともせずに『ロシー』が彼女を救ったみたいだった。それが決定的な敗北のような気がして、悔しくてどうしようもない。

 でもそんなことはどうでもよかった。――彼女が生きてることに比べたら。
 真っ青な顔色でずっと目を覚まさないロッティのそばに付き添いながら、このまま『ロシー』のところに行ってしまったらどうしようと不安で仕方なかった。

 自分なんかのところより、彼のところに行きたいに決まっていて、彼より喜ばせることが自分には何も出来ないのが何より悔しくて、一生懸命彼女が目を覚ます気になってくれるようなことを考えてやってみたりしたけど、それさえ彼のサボテン頼みだったりして、自分が不甲斐なくてどうしようもない。

「ツバメ君? もしもーし?」
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