第8章 セブタン島
人気の女優だったのも納得の美人で、恵まれていて、自分とのあまりの落差に最初は噛み付いてばかりいた。なんで海兵なんかやってるのかわからなかったし、同情も慈愛もいらないと、ナイフのように尖っていた頃だったから。
しかしツバメの反抗期は、あいにく3日ともたなかった。
あれやって、これやって、それやって、とロッティの要求は24時間絶えることなく、嫌だと突っぱねれば「執事でしょ!」と言われる。
「執事じゃありません!」と当たり前の主張をすれば、「じゃあ命令よ、ツバメ少尉」と返され、上官命令にされると逆らえない気になってしまうのだ。
昔の自分は上官命令でさえ気に入らなければ無視していたのだが、毒づきながら命令に従う内に、いいように条件付されていたことに気づいた。
『暇になると仲間とケンカしかしないんだから、忙しくしてるくらいでちょうどいいでしょ』
からくりに気づいた頃にはお嬢様の世話係として、いつの間にかツバメは隊に馴染んでいた。こき使われるツバメに同情してカルマートの面々はよく気遣ってくれたし、大変さをわかってくれる仲間がいる心地よさを初めて知った。
それでもツバメはなかなか態度を変えられず、縦社会において絶対であるはずの先輩にさえ毒を吐いたが、「可愛げがない!!」と言いつつ、彼らはツバメの性格をよくわかって受け入れてくれた。生まれて初めて、居場所が出来た気がした。
切れると自分でも止められなくて、人の痛みに鈍感で、痛めつけるのもなんとも思わなかった。自分は人として何か大事なものが足りてない欠陥品なんだろうと思っていたのに、初めて人間になれた気がしたのだ。
暴走して自分でも止められなくなったら、仲間やロッティが殴ってでも止めてくれた。
そのせいでケガまでした彼らに対して初めて心から申し訳ないという気持ちを持ったし、彼らのために変わりたいと思った。
何もかもに噛み付いていた頃とは比べ物にならないほど、今は穏やかに生きられるようになった。ロッティに振り回されるのも嫌じゃなくなって、むしろ目を離すと迷子になって、声を掛けてきた男にほいほいついていっては酒盛りしている彼女を自発的に探し回るのが日課になった。