第8章 セブタン島
「爆弾巻いたマネキンに襲われたことは?」
「あったわね、そんなこと」
すでに懐かしい思い出だった。ふと違和感を覚える。
「……ちょっと待って。私何日寝てたの?」
「3日です。トラファルガー・ローは取り逃がしました。もう出航してるでしょう。……僕の失態です」
「違う。先輩は大佐を治療してくれた彼を捕まえられなかった」
珍しくヒョウが間髪入れずに即座に否定した。
「うるさい余計なこと言うな」
弁護したのにナイフを投げられ、ヒョウはそそくさと医務室から逃げ出した。
ロッティは包帯の巻かれた自分の頭に触れる。
「……悔しいですが、彼の腕はうちの医療班より上でした。彼じゃなければ、助からなかった」
「すっごく嫌なこと聞いてもいい?」
「どうぞ」
何を言われても隠し事はしないと、沈痛な面持ちでツバメは頷いた。
「子供が爆発した気がするんだけど……」
ほっとして、ツバメは「人形でしたよ」と応じた。
「人形遣いの罠だったんです。ヒューマンショップを爆破したのも同じ手口だったようで。この島で七武海と揉めていたアルゴールに手を貸したようです。『毒薬』のほうは捕らえてあります」
「すごい。お手柄じゃない」
パチパチと小さく拍手をして、ロッティは部下を称賛した。
「……なのになんでそんな落ち込んでるの?」
全然理由が理解できずに、ロッティは首を傾げた。
「……トラファルガー・ローは、ドンキホーテ・ロシナンテ中佐に恩があったようです」
「そうみたいね。まあロシーは人助けが趣味みたいな人間だったから」
「だからあなたへの治療も誠心誠意、やれるだけのことをしてくれました」
「うん。それで?」
それだけです、とツバメは言った。この悔しさが彼女に伝わることはないと知っていたから。
会ったこともないロシナンテ中佐のことが、ツバメはずっと嫌いだった。
だって彼女がずっと、彼のことばかりだから。
モア・ロッティ大佐は、切れると自分でも手がつけられないツバメを、初めて持て余さずに受け入れてくれた人だった。
度重なる軍規違反で軍法会議に掛けられ、インペルダウンにぶち込んでしかるべきだとさえ主張した当時の上官からツバメを引き取って、「養父の七光があるから平気よ」と豪快に笑った。