第8章 セブタン島
海賊なんかに、という顔をツバメは正直にしたものの、出血の止まらない頭の傷に、唇を噛んでローに上官を差し出した。
「手元を狂わせたりしてみろ。八つ裂きにしてやるからな」
「……そんなコラさんに軽蔑されるような真似はしない」
息を呑み、それからツバメはらしくもなく黙った。
70.咲かない花
『ロシーはどうしてナギナギの実を食べたの?』
『……内緒』
彼は優しくほほえんで、一度だってその理由を明かしたことはなかった。
ロッティがその理由を知ったのは彼が海軍に入ったあとだった。「おやまぁ、知らなかったのかい」とおつるさんに教えてもらったのだ。
ナギナギの実は長年、海軍本部に保管されていたのだという。拿捕した海賊船から押収したものの、役に立たない能力に食べたがる人間は誰もおらず、忘れ去られるようにひっそりと倉庫の一角に置かれていた。
その日、幼いロシナンテと1歳になったばかりのロッティは海軍本部を訪れていた。
子守役のメイドが熱を出して、代わりの人間が見つからず、仕方なしにセンゴクが職場に連れてきたのだ。
ロシナンテとロッティは海軍の女性海兵たちに可愛がられ、海軍本部の中を案内してもらったりして、ご機嫌で過ごしていた。
だが、天竜人が突然マリンフォードを訪れ、空気は一変した。
取り寄せた家具が乗った船が海賊に襲われ、海軍の怠慢を罵倒するためにやってきた天竜人の名はエバース聖。道を歩いていて、下々民の赤ん坊が泣き止まずうるさいからとその場で撃ち殺したこともある最悪の天竜人だった。
『ここから絶対出るんじゃないよ』
おつるは天竜人が決して来ないだろう倉庫の奥に二人を隠した。
緊迫した雰囲気にロッティはずっと泣き続け、ロシナンテは小さなロッティを抱きながら、「大丈夫だよ」と言い聞かせていたという。
天竜人が帰り、倉庫に二人を迎えに行ったとき、ロッティは笑顔で遊んでいたそうだ。
飛び跳ねて走り回っても一切の音がせず、ロシナンテは笑顔でその遊び相手をしていた。倉庫からはナギナギの実がなくなっていた。