第8章 セブタン島
「ヒーヒヒヒッ、誰とも組まないのがあたしの信条だが、今回は別さ。奴の持ちかけてきた報酬は、実に魅力的だった。ギブアンドテイクさ、邪魔な海軍、麻薬の取り分をよこせと言ってくる邪魔な七武海の店……あんたのことはどうでも良かったが、海軍の目をそらすには絶好の相手だ。利用させてもらったよ」
いいように利用されたことに気づいてローは舌打ちした。船を停めさせたのには何か魂胆があるのだろうとは思ったが、海軍が休暇を楽しむビーチに誘導して騒動を狙っていたとは。
思えばドフラミンゴファミリーのバッジをつけたチンピラと揉めたのも、アルゴールの言葉で道を変えたのがきっかけだった。
「海軍に差し出すだけじゃ飽き足らず、ヒューマンショップ爆破犯に仕立ててくれようとしたわけか」
「あんたには本当はあの場で死んでもらうつもりだったんだけどねぇ。運の強い坊やだ。だが生き残ってくれたおかげで海軍をまとめて始末するいいチャンスになった。感謝してるよ、ヒーヒヒヒッ」
アルゴールが指を鳴らすと、鎌や包丁といった武器とも呼べない粗末な刃物を手にした貧民街の人間たちが一斉に現れた。うつろな目と土気色の顔色に、彼らが重度の麻薬中毒者であることをローは察した。
「さあ、『静寂』と『死の外科医』の首を取りな。うまくやれたら、天国に行けるほどの麻薬をくれてやるよ! これが済めば晴れてあたしも貴族の仲間入りだ。世界政府に追われ続ける生活ともおさらばだよ」
自分に待っているバラ色の未来がたまらないとばかりに、アルゴールは甲高い笑い声を上げた。不愉快極まりない声だった。
麻薬のために殺人すら厭わなくなった市民たちが、ジリジリと間合いを詰めてくる。襲ってくるなら容赦なく斬るぞという意思表示としてローは刀を向け、彼らを牽制した。
だが一人だけ、標的ではなくアルゴールに食い下がった者がいた。
「頼む、先に薬をくれ。もう何日も切れてるんだ……っ」
貧民街で娘を殴っていた、あの父親だった。
一人だけ抜け駆けされそうな様子に、麻薬中毒者たちは動きを止め、アルゴールと男の様子をうかがう。
「ええい、まとわりつくんじゃないよ! 薬は仕事を済ませた後だ……!」
「薬のために娘まで売ったんだぞ! 商品が爆破されたからと、その金さえもらえない! 薬をよこせ……っ!!」