第8章 セブタン島
破壊された人形を検分し、ツバメが推論を立てる。
「この残骸、ヒューマンショップにも大量にあった。ひょっとしてあの爆破も……?」
「可能性は高いな。自爆の瞬間まで、奴隷たちには怯えた様子もなかった。人形なら当然か」
ヒューマンショップの単語に、ローは既視感の正体に気づいた。さっきの子供だ。どこかで見た気がしたのだ。
爆破現場でローを見て爆弾魔と叫んだあの子供――反射的にローはロッティに怒鳴った。
「離れろ! そいつがブラッドリーだ!!」
え、とロッティが振り返る。子供は溶けて歪んだような不気味な笑みを浮かべ、次の瞬間、ロッティに抱きつき爆発した。
「大佐……!!」
ツバメが悲鳴を上げて駆け寄る。そこへ耳障りな笑い声が響いた。
「ヒーヒヒヒッ! やっと邪魔者が片付いた。まったくあんたらしつこいったらなかったよ」
腹を抱えて笑い転げているのは、見覚えのある黒衣の老婆。
「アルゴール! てめぇ、何のつもりだ!?」
血だらけで倒れた海兵を見て悪意を持って笑い続ける老婆に、ローは不愉快な気分で愛刀を向けた。
「おやおや、つれないことを言うんじゃないよ。あんたを狙う海兵から助けてやったんじゃないか」
「……てめぇがブラッドリーなのか?」
違う、と否定したのはロッティを抱えたツバメだった。
「そいつは毒薬のアルゴール。ヤクヤクの実の薬効自在人間。島をまるごと麻薬漬けにしては支配する、最悪の部類の海賊だ。懸賞金は9千7百万ベリー。……僕らの当初の標的だった」
「あいつが海賊……?」
腰の曲がった老婆にはあまりに不釣り合いな言葉にローは困惑した。だがアルゴールは、確かに海賊にふさわしい笑みを浮かべて節くれだった指を突きつけた。
「あたしの爆薬は効いただろう? 薬と名のつくものならば、毒薬、爆薬、思うがままさ。ヒーヒヒヒッ」
ツバメは今にもアルゴールに飛びかかる寸前だった。だがそれをぐっとこらえて、頭から血を流して倒れている上官を掻き抱く。
無意識のうちに彼らを守るように前に立ちながら、ローはわずかにアルゴールに向けた刀の切っ先を上げた。
「爆薬はてめぇのでも……人形を動かしてたのは違うだろう。ブラッドリーと組んでやがるのか?」