第8章 セブタン島
ヘイアン国の船は入江を越えて、切り立った崖に囲まれた小さな港に停泊した。明らかに密輸のために整備された港だった。
「ベポ、急げ!」
「待って~!」
はみ出た腹の肉を揺らしながら、ベポは先行する仲間に追いつこうと崖の上につながる急斜面を必死で登った。足を滑らしたら下までころころ転がってしまいそうな急傾斜だった。
「マリオン、なにか見えるか?」
やぶに身を隠しながらペンギンが真っ先に斜面を登りきったマリオンに尋ねる。
マリオンはウニが改良してくれた折り畳み式の遠眼鏡を出して、密輸の取引の様子を確かめた。積み込まれているのは大勢の奴隷だった。女ばかりで、多くが若い娘だ。
「この間、父親に殴られてた子じゃないか?」
目を細めて奴隷の列を見ていたシャチが、見覚えのある背格好に気づいて声を上げる。遠眼鏡で確かめて、マリオンは頷いた。
「奴隷の首輪をしてる。逃げなかったんだ……」
「あれ? でもヒューマンショップって爆破されたんじゃなかったっけ?」
ぜーぜーと肩で息をしながらやっと追いついたベポが疑問を口にする。夏島での全力疾走は相当こたえたようで、もうダメと地面に座り込んだ。
「爆破の前に競り落としてたってことか?」
腕組みしてペンギンは推理したが、いいや、とマリオンは否定した。
「自分以外に金を使うことを考えてないあの女が、あんなに大勢の奴隷をまっとうに競り落としたとは思えない。むしろ……奴隷を手に入れるためにヒューマンショップを爆破するくらいのことは平気でやる女だよ」
悔しそうに唇を噛むマリオンの様子に、いくら何でもそこまでと笑い飛ばすことができなかった。
「じゃあ……あいつがヒューマンショップを爆破させた犯人?」
不安そうにベポが指をくわえる。ちょっと待った、とシャチが声を上げた。
「ヘイアン国の船が着いたのはついさっきだろ? 数日前にヒューマンショップを爆破するのは無理だって」
「……ブラッドリーならやれる。ホワイトガーデンでそうだったように、あいつはヘイアン国に居ながら、そこら中に人形をばらまいてるんだ。手を組んでるイナリのためなら、七武海の店ぐらい躊躇なく爆破する」