第8章 セブタン島
「……怪しいな」
「絶対怪しい。二人きりなのをいいことに絶対キャプテン、にセクハラしてる気がする」
こうしちゃいられんと捜索と捕獲に行こうと立ち上がったシャチは、足場の鉄骨に思い切り頭をぶつけた。
「いってー!!」
「こらぁ新入り、騒ぐんじゃない!! もうじき国賓の船が入ってくるから出迎えの用意をしろ!」
キャプテンより怖い親方の怒声に2人と1匹は震え上がった。
そんな彼らを見てマリオンはけらけらと笑う。
「借金持ちは辛いねえ」
「うるせー、お前だってあの時あの場にいたら絶対同じ立場だからな」
「勝ち誇れる身分だと思うなよ」
ふんぞり返って「働きなさいな愚民ども!」と高笑いをしたマリオンは、入港してくる船に血の気を引かせて足場の影に隠れた。
「どうした?」
尋常でない様子に思わず一緒に隠れながら、代表してペンギンが訊ねる。
「最悪だ。ヘイアン国の船だ」
「マリオンの故郷?」
首を傾げたベポに、マリオンは青い顔でうなずいた。
港に入ってきたのは、朱塗りのマストと金の飾りが美しい豪奢な船だった。帆に描かれているのは鎧を着たイルカと、歌う巫女。
「王の船だ。あれに乗れるのは選定された王と、王の言葉を伝える特使だけ。どっちも今のヘイアン国にはいない。……畜生!」
船から下りてきた人間を見て、マリオンは鉄骨を殴りつけた。
「イナリ! あの女狐……!!」
遠目に見えるのは、鮮やかな衣を身にまとった女と、狐面をつけた兵士たち。
状況が飲み込めないベポたちに、マリオンは早口で説明した。
「人形遣いのブラッドリーと組んで俺の家族を殺し、国を乗っ取った貴族だよ。あの宝冠も、打ち掛けも、全部王のためのものなのにあの女……!!」
今にも飛び出して殴りかかりにいきそうなマリオンを、ベポたちは必死に止めた。狐面の兵士たちは刀と弓で武装し、今出ていけば串刺しにされてしまう。
港に入った船は島の役人と短く話をすると、まるで人目をはばかるように死角になる入江の向こう側へと船を移した。
「あ、マリオン……!」
何をする気なのかと駆け出した仲間を追って、ベポたちは迷うことなくその場を離れた。