第2章 グランドライン
「そいつのいる方角はわかるか? 捕まえられたら夕飯はステーキだ」
「ええとね、あっち」
ステレオで聞こえる音を判別して、は指さした。
「ベポ、指示しろ」
「アイアイ! 東から風が来てるから取り舵!」
操舵と帆で風を受けるためにペンギンとシャチが慌ただしく動き回る。
「音の聞き分けは問題なさそうだな」
「いろんな音がしてるけど、それが何の音なのか、これから覚えていけばいいんでしょう?」
「ああ、そうだ。だが音を聞くだけじゃ方位はわかっても距離がわからねぇから、今度はアクティブ・ソナーを使う」
説明書をめくって、ローは操作方法のページを探した。
「……キャプテン、何か読んでる?」
「こいつに関しては俺も専門じゃないんだ、仕方ねぇだろ」
「そうじゃなくて。もともとネモ博士が自分が乗るつもりだったら、説明書なんて作らないんじゃない?」
言われてみればそうかと、やけに細かく詳しく、それこそ初めて見た人間でもなんとか理解できるように手書きで書かれた説明書を改めてローは見下ろした。
「……ひょっとしてネモ博士は、いつか誰かに潜水艇を託すつもりだったのかもしれないね。夢が詰まった最後の船だもん。奥さんが倒れて旅が叶わなくっても、そのまま朽ちさせるのは忍びなかったのかも」
気難しい老人で、最後までローたちに打ち解けることはなかった。礼のひとつもなく、シャチのケガを心配するでもなく、用はすんだからさっさと出て行けとばかりで――。しかしそれがあの老人なりの、激励だったのだろうか。
少なくとも潜水艇は何度嵐に遭ってもびくともせず、ハートの海賊団の航海を大いに助けてくれている。
「私、頑張って使い方覚えるよ。船の能力を全部引き出してあげられないなんて可哀想だもんね」
笑うの頭を無意識に撫でそうになって、子供扱いだと怒ったのを寸前で思い出した。
(かわいくて和むな……)
これまで散々シャチやペンギンが『かわいい女の子を仲間にしよう』と力説していたが、こういうことかと妙に納得してしまう。確かにが一人いるだけで、船の雰囲気はだいぶ変わった。
「キャプテン海獣出たー! 船を襲う気だよー!!」
「晩飯だろ。ステーキが食いたきゃ仕留めろ」