第2章 グランドライン
「たまたまその時、俺達は博士の住む島にいたんだ。はじめはかなりのボロ船で航海してたからさー。ベポもよく天気予報を外してシケにもやられてたから、とうとう船が壊れちまって。かといって新しいのを買う金もないし、どうしようかって話してたらネモ博士が来て『お前らを金塊で雇ってやるから妻を取り戻すのを手伝え』って言い出したんだ」
「博士はお金持ちだったの?」
「大昔に沈んだ商船を引き上げて、多額の金銀財宝を手に入れたって噂があったんだよ。ウソかホントかわからないじまいだったけど、金塊は本物だった。……気難しい爺さんで、明らかに厄介事を抱えていたのにキャプテンが引き受けちゃったもんだから死ぬところだった」
「あの時は他に金策のあてもなかっただろ」
俺全治3ヶ月でしたよ!というシャチにも船長はしれっとしたものだった。
「奥さんは助かったの?」
「……ネモ博士が時間稼ぎで潜水艇を完成させてる間に、海賊からは助けたよ。でも病気がもう末期で、その後すぐ亡くなったんだ」
「そう……でも最後にちゃんと家に帰れたなら良かったね」
しんみりと言うは、家に帰ることもなく死んでしまった奴隷友達のことを思い出しているようだった。
空気を読まずに「それからひどかったよねー」と言い出したのはベポだ。
「そうそう、あの博士、完全に俺らに八つ当たりしてたもんなー。『これ以上海賊の顔なんか見たくもない、潜水艇はやるから今すぐこの島から失せろ!』って叩き出されて」
「金のほかに潜水艇まで手に入ったんだから上々だろ。それとも海賊なのに感謝が欲しかったのか?」
「そういうわけじゃないですけどー」
船長の合理的な物言いに、クルーはブーブーと口を尖らせた。
「まあ、潜水艇を手に入れた経緯はそんなところだ。ソナーの説明に戻るぞ」
「うん」
「これが聴音機を下ろすレバー。聴音機で海中を聞くのがパッシブソナーだ」
の手を誘導して触らせながら、ローは説明した。
もともとネモ博士は妻をこのソナー席に座らせる想定で設計している。彼の奥方も目の見えない人だったから、操作でが困ることはないはずだ。
ヘッドホンから聞こえ始めた音に、は興奮した。
「わー、すごい。海の中にいるみたい! 大きな海獣の鳴き声がするわ」