第8章 セブタン島
「聞きたいことねぇ……」
考え込んで、ロッティは沈黙した。
待ての出来ない駄犬のように、ツバメはローの顔を見てチラチラとナイフを動かす。海賊の首切り依存症なのかもしれない。最悪の病気だ。
「……11年前なら、あなたまだ子供でしょう。ドンキホーテファミリーみたいな海賊にどうして関わったの」
同情するような口調にローは沈黙を返した。
砕かれた肩をツバメに蹴られるが、にもまだ話していないことを海軍に打ち明ける気にはならなかった。
「殺せば口を割りますよ」
「どうやってよ。あとそれ犯罪だから」
「それでサボテン捨てる気になるなら、別に犯罪者になってもいいですよ」
「捨てるわけないでしょ」
「チッ」
事故を装ってサボテンの入った鳥籠を海に蹴り飛ばそうとしたツバメは、その前にさっと上官が籠を持ち上げたので足を空振りさせた。
「後生大事にそんなもの抱えてたって、死者は帰ってきませんよ」
「……知ってるわ、そんなこと」
それでもロッティはそうすることでしか、天国の彼に自分の思いが変わらずにいることを伝える手段がないとばかりに、ぎゅっと鳥籠を抱きしめる。
「そのサボテン――」
壊された肩を動かさないようにしながら、ローはなんとか起き上がって地面に座った。
「ロシーがくれたのよ。最初の任務の後のお土産だったわ」
コラさんらしい――どこか敗北したような気分でローで思った。
女に贈るのに花じゃなくてサボテンという残念感と、そんなこと関係なく、いまだにそれを大事にしているロッティの姿に、本当にこの女のことが大事だったんだろうなと理解してしまったのだ。
あの頃自分にとって大事な人は彼だけで、だから彼にとってもそうだと、そうであってほしいとどこかで思っていた。
でも違った。形見のサボテンや、彼と同じ悪魔の実さえ食して、こうして今も思い続けるような女が大事じゃなかったわけがなく、それを自分が一切知らなかったことがショックだった。
だが考えてみれば、それは当然のことだった。今のローにやクルーたちがいるように、生きていれば大切なものは増えていく。彼がそれを語らなかったとしても、なかった証明にはならない。
どこかで嬉しかった。彼の死を悲しむ人間が、自分ひとりじゃなかったことが。