第8章 セブタン島
「……っ!!」
泣き崩れたロッティを持て余し、センゴク伯父は一人にしてくれた。とんちんかんなことばかりする彼の、珍しくまともな反応にロッティは感謝した。
この悔しさを誰かと共有するすべはない。
(知ってたのに……っ!!)
誰よりも彼のことを知ってた。彼が誰より自分のことをわかってくれていたのと同じように。
だからこの結末にも驚きは何もなくて、だからこそ何もしなかった自分の間抜けさが悔しくて仕方ない。
断言できる。自分が彼と同じように16で海軍に入って、そして彼の任務の補佐に付いていたらこんな結末にはならなかった。自分の全力を持って、こんな結末にはしなかった。
「……結婚は私がそっちにいくまでお預けね。ドジって私のこと未亡人にもなれない女にしたんだから、それくらい待てるよね?」
もう間違えない。その日を境にロッティはきっぱりと演劇を辞めて、海軍に入った。
ただ一つ心残りがあるとすれば。
(ロシーの子供生みたかったなぁ……)
子供を抱いて、泣いて喜ぶ彼の顔が見たかった。
◇◆◇
自分の部下に痛めつけられ、地面に這いつくばっている海賊をロッティは嘆息して見下ろした。この光景、いったい何度見ただろう。億超えの海賊だろうと関係なく、うちの狂犬は敵をみんな食い散らかしてしまう。
「ごめんなさいね。うちのツバメ少尉は見境と常識と良識がないのよ」
「常識と良識はあなたよりマシですよ。少なくとも僕は迷子になった先で人様の食事を平らげたりしません」
「上官に対してもこの態度よ。誰か矯正してほしいわ――優秀な執事に」
「僕は! 執事じゃ! ありません!!」
バカバカしいコントを聞き流しながら、ローは自分の体の状態を確かめた。肩は痛むが、強引に外されただけ。指もよりは重傷ではない。
問題は片腕では立てないことだった。能力を使えば移動は可能だが、今動けばツバメに足を切り落とされかねない。
「聞きたいことがあるんじゃなかったんですか? だから首を掻き切るのを我慢したんです」
いいなら殺っちまうぞと言わんばかりの口調にローはげんなりした。なんでコレが少尉なんだ。
「上官の命令無視を始めとした軍規違反が多すぎて昇格させられないのよ」
ローの顔を見てロッティはため息をつく。納得の理由だった。