第8章 セブタン島
67.彼を知る者の邂逅
「……なんで?」
婚約者の墓の前で、ロッティは誰にともなくつぶやいた。
彼にピエロのメイクをしてプロポーズをした夜から6年後のことだった。彼は任務に行き、そのまま帰らなかった。
彼が命をかけて止めようとした実の兄は、グランドラインに入って悪名をほしいままにしている。
「わからない……」
一緒に参列したセンゴク伯父が、やはりロッティに答えるでもなくつぶやいた。
彼は信頼する部下の行動の理由がわからず、打ちひしがれて、そしてひたすらに困惑していた。
でもロッティは少し違った。なんとなく、こうなる未来もありうるのではないかと彼女はどこかでずっと感じていたのだ。
(ロシーは優しいから……)
どんなわがままだっていつも笑顔で聞いてくれるくらい、本当に優しいから。
誰かを傷つけるばかりの場所で、いつまでもニコニコ笑うピエロの振りができるわけがなかった。だから早く帰ってきてほしかったのだけれど、それは叶わず、彼は命を落とした。
(なんで私、迎えに行かなかったんだろう……)
こうなることは目に見えていたのに。
『タバコが切れたからちょっと買ってくる。すぐ戻るよ』なんて言って、彼が本当にすぐ帰ったことなんて一回もなかった。
荷物の重そうなおばあさんを助け、それが済んだら転んで泣いている子供を家まで送り、そのお礼だからと茶菓子をごちそうになり、悪いから畑仕事を手伝いますよ――と。結局ロッティが迎えに行くまで、ロシナンテは絶対帰ってこないのだ。
(バカじゃないの? 私……)
全然帰ってこないロシナンテに業を煮やして、来年帰ってこなかったら違う男と結婚してやるなんて思いながら、舞台稽古に精を出していた。
彼は冷たい雪の上で、何発も銃弾を撃ち込まれて苦しんで死んだのに。
訃報を聞いたとき、しまったと思った。こうなることは予想できたのに、なぜか全然思いつかなくて、次に帰ってきたら美しくなった私の魅力にくらくらするがいいわ!なんて思っていたのだ。
(バカじゃないの、私……っ)
演劇は楽しかった。大好きだった。でも、好きなこととやらなきゃいけないことは違う。