第8章 セブタン島
つーんとロッティは無視したが、ロシナンテは「どこのどいつだ、ぶっ飛ばしてやる」とまるでシマを荒らされたマフィアみたいな反応をしている。
それを見ながら、ロッティは密かに上機嫌になって、ロシナンテの頬にキスした。
「今ならまだ、ロシーと結婚してあげる」
ロシナンテは赤面し、パクパクと口を動かして、かすれてどもってどうしようもない声で「大人をからかっちゃいけません」となんとか絞り出した。
「からかってないもん。私、ロシーの子供生んであげるよ。ロシー子供大好きだもんね」
道を歩いてても赤ん坊を見つけるたび、「可愛いなぁ可愛いなぁ」と本当に彼は幸せそうな顔をするのだ。
ロッティに迫られ、ロシナンテは敗残兵のように逃亡した。女の子の成長は早いと言ってもこれは早すぎるだろ。
しかし狭いテラスの中なので、すぐにこれ以上逃げる場所もなくし、「待って待って待って!」と3秒後に起爆の迫った大量の爆弾の前に立たされたような気分でロシナンテは叫んだ。
「ロッティに手を出したら俺はセンゴクさんに殺される!」
「そうかな。喜ぶと思うよ。第一めったに帰って来ないあのおじさんに、私たちの結婚をどうこう言う資格はない!」
「そんなことないよ。ただ忙しいだけだよ。……いやええとそうじゃなくて! 俺はロッティより8つも年上だし、ロッティのおしめだって替えたことがあるし」
「だから?」
だからええとつまり何だっけ? 何を言おうとしてたんだっけ?
「だから、ロッティが大好きだってこと。可愛くて可愛くて、大事でしょうがないんだ」
言ってからハッとした。違うこれじゃ逆効果だ。ドジッた。
現にロッティは勝ち誇った本当に嬉しそうな顔をしていて、こうなったらもうロシナンテは彼女に逆らえなかった。
抱きつかれ、まだ子供なのにもう子供じゃない体つきにどぎまぎする。しかしキスすると、罪悪感がすごかった。
「ここまで! これ以上はさすがに! 犯罪者みたいな気分になるから!」
「いいよ。じゃあ続きは私が大人になったらね。それまでロシーは浮気しちゃダメだよ」
「はい……」
今からもうかかあ天下の未来しか見えない。でもその未来は、ロシナンテが想像する最高の幸せそのものだった。