第8章 セブタン島
(ああやっぱり、止めに行かねぇと……)
兄をこのままにはしておけない。説得できるとは思えないが、ドフィは決して誰かの幸せを願ったりしないから。自分より恵まれた人間は気に入らず、その生活や人生を破壊して嗤うような、そういう人間なのだ。
野放しにしておけば、いずれロッティにまで危害が及ぶかも知れない。
「……ロウ。ごめん。俺、行かないと」
「だめ」
「血のつながった俺の兄なんだ」
「絶対だめ」
「俺が止めに行かないと」
「だめ!! だってロシー、行きたくないって顔してるもん!」
見透かされて、ロシナンテは泣きそうになった。
ドフィを説得はできない。だから止めるには捕まえるしかない。
頭が良くて抜け目のない男だから、信用を得るには彼の懐に入るしかない。スパイをするのは全然構わなかった。結果的にドフィを裏切ることになるのも、まったく心は痛まない。
(ドフィのもとで仕方なくとはいえ人を傷つけたり、見て見ぬふりをしたりしても、ロッティのところに帰れるかな……)
任務とはいえ血に濡れてしまった手で、ロッティを抱きしめられるだろうか。そんな自分をロッティはこの幸福の象徴みたいな家で、ずっと待っててくれるだろうか。
それが怖くて本当は行きたくない。でも――。
「誰かがやらなきゃいけないんだ。弟の俺が、それを人任せにしちゃいけないと思う」
泣きそうな顔で、ロッティはぐっと不満を飲み込んだ。
(大人になったんだなぁ……)
海軍に入ると伝えたときは、絶対ダメと泣きわめかれたのに。たった5年でこんなに成長するんだなぁと感動したが、ポロポロとロッティは泣き出して、「だめ……」とまた言い出した。
「だってロシー、絶対スパイなんて向かないよ。絶対ドジってバレて殺されちゃう……」
「そっち!?」
泣かれるほど信用ないのかと、ロシナンテは呆然とした。しかもロッティが言うと本当にそうなりそうな気がする。
「顔に出るし、隠し事苦手だし、ウソなんてもっと下手だし。そんな繊細で危ない仕事絶対ダメ……」
ロシーが死んじゃう、とロッティはロシナンテの服を掴んでしゃくりあげた。
「で、でも、俺が行かないと。他の誰もドフィには近づけない」