第8章 セブタン島
「……学校はどう?」
話題を変えたくて、不自然でも無理やりロシナンテは尋ねた。
意図を察したのかロッティはにっこり笑って「今度の劇で主役になったよ」と自慢げに報告する。
「へぇ」
「街の劇団の人が指導に来てくれて、筋がいいって褒められたの。興味があったらうちの劇団に来ないかって」
「すごいな! 女優さんになるのか」
「そんな簡単じゃないよ。でも演劇は好き」
「きっと向いてるよ。ロッティ……ロウは度胸もあるし、人に見られても緊張しないだろ」
「うん。逆に見られてると頑張ろうって気になる。そういうところ役者向きだって言われたよ」
ロシナンテがセンゴクに連れられて初めてこの家に来たとき、彼女はまだハイハイもできないような赤ん坊だった。
私の妹の子なんだとセンゴクには説明された。正義感の強い医者夫妻で、貧しい人々を無料で治す医療船に乗っていたが、手傷を負った海賊に船を襲われ治療を要求された。船には海賊よりも重傷な患者がいて、そちらが優先だと主張した結果、二人は激高した海賊に殺されてしまったのだと。
カゴに入った赤ん坊は本当に小さくて、よく泣いた。世話係のメイドがノイローゼになるくらい、ロッティは四六時中泣く赤ん坊だった。
でも笑うと天使みたいで、笑顔を向けられると存在を許された気がした。天竜人は――自分は生きてちゃいけないのかとずいぶんと思い悩んだけれど、赤ん坊のロッティにはそんなこと全然関係なくて、身分に関係なくただただ彼女は自分を世話をする人間を必要としていて、必要とされると生きてていいという気持ちになれたのだ。
何よりロッティはそりゃあもう聞かん気が強くて、ちょこちょこ歩けるようになると火とか水とか蛇とか危険なものにばかり寄っていくし、つかめるものはみんな投げたし、床にばらまけるものは全部ばらまいて、一秒だって目が離せなくて、自分の存在について思い悩む暇なんか全然なかった。
(心血注いだ俺のお姫様……)
ロッティが幸せでいてくれたら、自分の人生にも価値があったと思える。