第8章 セブタン島
「ん?」
「私がするからキャプテン寝てて!」
下からを見上げてそれも悪くないと思いながらも、に主導権取られた日には取り返せなくなることに気づいて、慌ててローは「却下」と能力でとの位置を入れ替えた。
「むー!」
(……まずった)
の顔を見て下手を打ったと悟ったものの、もう遅く、はぐいぐいとローを押しのけると、「知らない!」とふて寝してしまった。
「。悪かったって。機嫌直してくれ」
「や」
「せっかくホテル戻ったのに――」
「無理強いするならキャプテンのこと嫌いになるわ」
「……それずるいだろ」
そう言われては引き下がるしかなく、ローは毛布を引っ張ってにかけると、カバンに突っ込んでいた医学書を能力で取り寄せた。
片手でなだめるようにの髪や背中を撫でながら、時間が彼女の怒りを鎮めてくれるのを待つ。
ははじめこそ自分を子供扱いして何もさせてくれない船長に腹を立てていたものの、髪や背中を撫でててくれる手が心地よくて、気づけばベッドに横になりながら、隣に座って医学書を読む彼を伺うようになっていた。
(紙の匂い……)
ページをめくる音。消毒液と、かすかなインクの匂い。そこにの好きな香水の匂いがまじって、すごく心地良い。
(大好き……)
の選んだ香水をつけてくれた彼は、まるでの所有物だと印を付けてくれたみたいで、ふと匂いが香るたび、照れくさいようなむずがゆいような、気恥ずかしい気持ちになる。
(キャプテンは誰のものにもなったりしない……)
誰より強くて賢い彼をつなぎとめることは不可能だ。自分こそが彼の所有物なんだとは自分に言い聞かせる。
(キャプテンのためなら何でもする……)
彼のためなら命だって惜しくなかった。命を助けて、クルーとして認めてくれた彼のためにいつかこの命を使おうとずっと思っていたけれど、今はそれよりもっと、何でもできる気がする。
誓うようにそっと彼の手にキスすると、分厚い本が閉じられる音がした。
ベッドが軋み、額に落ちるのは、やさしいキス。