第8章 セブタン島
(ドンキホーテ・ロシナンテ元中佐の件が絡むと、あなたはいつも辛そうな顔をする。彼は裏切り者なのでしょう? あなたがそうまでして、気にかける必要はないのに)
だが昔似たようなことを言って、「何も知らないくせに」と殴りかけられた経験があるので、ツバメは黙っていた。
「捜索の人手が足りなければ、『カルマート』を出すわ」
静寂のモアの懐刀である遊撃部隊。音もなくターゲットの背後に忍び寄り、首を狩ることを得意とする。
潜入工作も得意なため、彼らなら貧民街にも入り込めるだろうが――。
「彼らは温存すべきです。あなたの盾がいなくなる」
「ナギナギの実が役に立たなくても、私だってそこまで無能じゃないわよ」
「……僕に捜索の指揮を取らせていただけませんか? 必ずトラファルガー・ローを見つけ出します」
「なにか考えがあるの?」
「まだ言えません」
「……わかった。あなたに任せるわ」
一礼して退室しようとし、ふとツバメは上官を振り返った。彼女はまだ、花も咲かないのに捨てられずにいるサボテンを見つめていた。
「……モア大佐」
呼びかけると、彼女は振り返る。単純に、ただ何か忘れた用があるのだろうと思ったようだった。
「……僕を拾ってくれて、ありがとうございました」
「……? どういたしまして」
養父の七光を利用し、海軍を辞めるかインペルダウンに入るしかない状況だった狂犬を引き取ってくれた恩人は不思議そうに目を瞬いた。
(僕は本当は、あなたにとても感謝しているんです)
本当に言いたい言葉は、性格に邪魔されて言うことができなかった。