第8章 セブタン島
彼女がこの島にいるという情報を得てロッティは部隊を引き連れて来たわけだが、到着直後に新聞を賑わわせたばかりの旬の海賊、トラファルガー・ローが来ているという匿名のタレコミがあった。
何かの罠かと警戒していたら、ビーチでうっかり本当に見つけてしまい、手柄のチャンスではあったが、まるでそれすら誰かのお膳立てのようで、気に入らなかった。
トラファルガー・ローを捕縛したら、エニエス・ロビーまで連行しなければならない。それを狙った誰かの画策という気がしたのだ。
島を出入りする船は厳しくチェックしているので、アルゴールがこの島に潜伏しているなら、ロッティが網を張り続ける限り彼女に逃亡の手段はない。悪名高い彼女なら、自分が脱出するために同業の海賊をエサとして差し出すくらいはするだろう。
「アルゴールに、トラファルガー・ローに、爆弾魔……さすがに私一人じゃ手に余るわね。応援を呼ぼうかしら」
「爆弾魔とトラファルガー・ローは同一人物なのでは?」
「断定するのは早いわ。ヒューマンショップを爆破したところで彼に何か理がある?」
しばし考え、ツバメ少尉は名推理を見せた。
「盲目の可愛い女の子がいたでしょう。彼女が誘拐されてヒューマンショップに売られそうになったから爆破した、という線は?」
「すごいありそう」
なるほどそれで爆破したのかとロッティは納得しかけたが。
「いやいや。彼女を取り返すのが目的なら、その後わざわざ様子を見には来ないでしょう」
「思ったより火薬の量がすさまじくて、被害を見に来たとか。実行犯は現場に戻って自分の仕事ぶりが見たくなるものですよ」
「……えらい具体的ね。爆破の経験があるの?」
「火をつけたことなら」
さすがは荒くれ者が集まるGー5の中でも狂犬と呼ばれて御しきれず、一度は軍を追われかけた問題児だ。
「とにかく、トラファルガー・ローと爆弾魔を結びつけるのは待って。少なくとも爆破の現場にいたことは認めたんだから、捕縛して話を聞きましょう」
「……聞きたい話はそれだけですか?」
咎めような口調に、ロッティは顔を上げて部下の顔を見た。
「……私情がまじっているのは認めるわ」
違う。そんな顔をさせたいわけではないのに。この気持ちをうまく言葉にするすべをツバメは持たなかった。