第8章 セブタン島
「できた!」
ロープで木の幹に巣箱を固定し、上機嫌でロッティは「任務完了!」と報告した。
「ご苦労であります、ロウ大将!」
びしっとロシナンテが敬礼すると、ロッティもうれしそうに敬礼し「えへへ」と破顔した。
「……一人前のロウ大将に報告があります」
「……?」
彼女と別れるのは寂しくて仕方なかった。
「海軍に入隊することが決まったんだ。来月から、俺は――」
「だめ!!」
ロシナンテの服を掴んで、ロッティは全力で拒否した。
「海兵になんかなっちゃダメ! ロシーまで帰ってこなくなっちゃう! そんなの絶対ダメ! ロシーは行っちゃダメぇ!!」
大泣きされて、もらい泣きしそうだった。どんなに厳しい訓練も怖くはないが、思うようにロッティに会えなくなると思うと、今から寂しさでどうにかなりそうだ。
「どこに行っても、必ずロウのところに帰ってくるよ。約束する」
「……ウソつき」
軍艦の自室で、天井から吊られる鳥かごに入ったサボテンを見ながら、モア・ロッティ大佐はつぶやいた。
サボテンは彼が最初の任務に行ったときのおみやげだった。とてもきれいな花が咲くって教えてもらったんだと嬉しそうに語り、彼が帰ってきた何日か後の夜、一緒に白い花弁が開くのを見た。
「……モア大佐」
ノックをして入ってきた部下を、彼女はけだるげに振り返った。
「トラファルガー・ローは見つかった?」
報告を書き留めたメモを見ながら、ツバメ少尉は首を振る。
「船を停められそうな港を中心に捜索していますが、まだ手がかりすら何も。貧民街の住民は我々に非協力的で、島の裏側にはろくに入れないんです。法に触れるものを日常的に扱ってるからなんでしょうが――」
「もとの任務も進まないわけね」
モア・ロッティ大佐に与えられた当初の任務は、毒薬のアルゴールというお尋ね者の捕縛だった。島をまるごと薬漬けにして支配し、海軍が迫ると島ごと捨てる最悪の部類の海賊だ。