第8章 セブタン島
実演とばかりに司会に殴られても刺されても微動だにしなかった大男は、ふいに顔をあげてローを見た。
(……? なんだ?)
ガラス玉のような不気味な目。そう思った次の瞬間、大男は司会の男を抱きかかえ、爆弾付きの首輪を外そうと力ずくで引っ張った。
「やめろ! 何して……っ、この距離で爆発したら俺まで――!」
爆弾は人の売買をなりわいにする司会者ごと、奴隷の頭を吹き飛ばした。
悲鳴が上がり、混乱する会場に、さらに全身に爆弾を巻き付けた奴隷たちが飛び込んでくる。
「……っ、ROOM!!」
何が起こっているのか理解できないながらも、ローは反射的に身を守るために能力領域を展開した。
会場の外に自身をワープさせるのと、ヒューマンショップが爆弾で吹き飛ぶのはほぼ同時だった。
爆風と飛んできた瓦礫が直撃し、遅ればせながら地面に伏せる。
(くそ……!!)
衝撃でしばらく動けず、周囲の悲鳴にかろうじて意識を繋ぎ止める。
なんとか起き上がって振り返ると、ヒューマンショップは原型を留めていなかった。
炎上し、ほかの生存者は絶望的だった。
(ここから離れねえと……)
客席には天竜人こそいなかったものの、世界有数の富豪たちが訪れていた。面子にかけて海軍は犯人探しをするだろう。
唯一生き残った海賊のローが実行犯にされる確率は高い。
(なんだったんだ? 奴隷の集団自爆……?)
よろよろとその場を離れながら、何が起こったのか記憶をたぐる。
(奴隷ってのはみんなみたいに自爆志向なのか……)
危うく死ぬところだったせいか、ずいぶんと思考が極端になっていた。
普通に考えてありえないだろう。
(あいつの目……怯える素振りもなかった)
無機質な、ガラス玉みたいな目。死ぬことをなんとも思っていないみたいな。
思えば爆弾を巻いて飛び込んできたほかの奴隷たちも、死を恐れているような様子はなかった。かといってそれを異常にも思えない不思議な光景だったのを思い出し、なおさら気味悪かった。