第8章 セブタン島
ヒューマンショップは観光街から少し離れた場所に、隠れ家のように建てられていた。
世界貴族やセレブたちが奴隷を買って楽しむための店。世界政府も黙認しているとはいえ、おおっぴらに営業するのははばかられるということなのだろう。
中は明るく、ショーでも行われるような派手な内装で、いかにもドフラミンゴらしいと思った。あの男はどんなタブーも恐れない。それを楽しく興行のように見せることで、抵抗感や罪悪感をなくすのだ。
ステージではちょうど、昨日父親に殴られていたあの娘が競売にかけられるところだった。
(バカだな。逃げなかったのか……)
もはや望みはなく、司会者は滔々と口上を述べた。
「ちょっと顔にケガをしてますが、なあに、これくらいすぐ良くなりますよ! 見た目が少し悪い分、値引きするのでお買い得商品です!」
彼女は客席にいるローを見つけてすがるような眼差しを向ける。だが助けられるはずもなかった。
『売られたことがあるのか?』
『何度かね。待遇が良くなることもあれば、悪くなることもあったよ。……でも売られた直後は大体乱暴されるから、いつも痛くて苦しくて嫌だった』
売られる奴隷を見ると、どうしてもに重ねてしまう。同じ道を辿るだろう娘に同情しないわけではなかったが、助けを求めることしかできない娘を海賊船に乗せるわけにもいかない。
航路もない海を行くのだ。その船に乗る人間は自分で人生を切り開く力がある者でなければならない。少なくともその気概のある者でなければ、こんな時代では生き残れない。
(女ならそうそう殺されない。島を出るチャンスだ)
もし自分が彼女の立場なら、そう考えるだろう。都合のいい助けなど期待せずに。
絶望に沈む目で、彼女は自分を買った世界貴族をぼんやりと見るだけだった。
「さあてお次は、どんなに痛めつけても悲鳴をあげない大男! 力仕事や護衛にうってつけです! しゃべらないので秘密が漏れる心配もなし! おすすめ商品ですよ!」
次に登場したのは凡庸な印象の大男だった。死人のように表情がなく、その顔は絶望というより、まるで人形のような印象を受ける。