第8章 セブタン島
56.たわいない日々
「機嫌は直ったか?」
「……まだ」
観光街まで連れ出して、パフェを食べさせ、ベポそっくりのぬいぐるみを買ってやり、野良猫と遊んだ帰り道。は上機嫌で否定した
「顔笑ってるぞ」
「あとは帰ってもこもこ海賊団を作るの」
「それは船長として全力で阻止する」
「キャプテンはもう、もこもこ海賊団の一員だよ?」
夏島でも脱がないふかふか帽子を背伸びして撫でて、手遅れだとばかりにはにっこり笑った。
(ああもう……)
誰かこの可愛い生き物に、そんなに可愛いとさらわれちまうぞと忠告してやってほしい。
「キャプテンはもこもこ海賊団の副船長にしてあげる」
ならないという意思表示に、ローは自分の帽子をにかぶせた。
「帽子は預かった! 返してほしくばもこもこ海賊団の副船長になるのだ!」
は誘拐犯を気取ってビシっと指を突きつけた。
「ならない」
笑いをこらえて言うと、「えー」とは声を上げ、買ったばかりのぬいぐるみを差し出した。
「ベポぐるみ貸してあげるから」
「……そんなに俺が必要だって?」
「必要だよ。キャプテンは絶対必要」
もこもこ海賊団の船長にキスしていいならやる、とうっかり言いそうになるのをローはこらえた。誰が見てようと、何を言ってこようと、全部無視して一日中にキスしていたい。
(好きだ……)
を傷つけ、怯えさせるだけの言葉。だけど思いは溢れて、いつかこぼれてしまうんじゃないかと不安になる。
が笑ってくれると嬉しい。
花が咲いたみたいな、春の日差しが射したみたいな、そんな気分になる。
彼女のそばにいると、とっくに忘れたと思っていた昔のことをよく思い出すのだ。
優しくて大好きだった家族がいて、何の不安もなかった、あの頃のことを。